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2008-07-10
小豆洗い伝
なさけないなあ
こんなところで殺されちゃって
おれ、あずき洗いです

あずき男のことは
人もときどき思い出す
今ではあずき洗いとか、あずき男だが
もとはあずき小僧といって
なぜなら、そいつは
山寺の小僧だったが
谷におりて、あずきを洗ってる最中
同僚の坊主に川へ突き落とされて
だから坊主なんか信用してはいけないと
誰も教えてやらなかったのか
岩に頭をぶちつけて
死んでしまって
それ以来だ
ときおりこの世に現れて
というか、死んだくせに、未練がましく
あいかわらずこの世にいるわけで
あずきをとぎながら泣いたり笑ったり

なさけないなあ
こんなところで殺されちゃって
おれ、あずき洗いです

そういうわけで
はじめは小僧だったあずき小僧も
年月がすぎて
今ではあずき男、あずき爺ィ
思い出すのはほかでもない
ザルからこぼれたあずきのひと粒が
ころころ転がって
世界の滅亡をたくらむ加藤保憲の溶鉱炉に
転がり落ちた場面だが
あずきを追って
あずき男も転がり込んだのだったか
そのへんが定かでないが

なさけないなあ
こんなところで殺されちゃって
おれ、あずき洗いです

あずきをただとぎながら
泣いたり笑ったりするだけの
ひとを怨むことさえできないゴミみたいな存在が
誰にも知られていない加藤の陰謀を
誰にも──当のあずき爺ィにさえも──知られぬまま
打ちくだいたりして
ときに世界の
歴史を変えることがある──わけはないのだが
いや、あるかもしれない
そんなこともあって欲しい
と想像するのは
やはり愉快なことである