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2011-04-09
なんでもない詩が書きたい
なんでもない詩が書きたいと思う。
なんでもないけど、詩であるような詩。詩そのものであるような。
たとえば、次のようなもの。

長い東海岸での昼

あのちょっと
船長
あなたはかぶと虫だ

土人たちが紺碧の旗をもって
追いかけてくる
- 藤富保男「長」

ね、なんでもないわけだ。けれども漂う寂寥感。
詩は人間の書くものだから、なんでもなく書いても、その人が出る。
だったら、わざわざひけらかさなくても、その人である。
そういうふうに書けたらと思う。

ずっと青であった

途中で花盗人に一人会った

どこからか
空虚な所へ出てしまった

ところどころに
知らない男達が立って待っていた
- 藤富保男「ず」

やはりなんでもない。
なんでもないけど、なにかである。
意味付けはしない。

六時に女に会う
女と会う
一人の女に
一人の六時に
一人で六時のところに立って

六時だけが立って
誰もいない
- 藤富保男「六」

なんでもなさがやや薄くて、
なんでもなくはなさそうな気配が出てると思うが、
人と会う約束をした。
約束の時間に約束の場所に立っていた。
気がつくと、そこには時間と場所しかなくて、
誰もいないのです、どうやらこのわたしも。
あはは。と、どこかで誰かが、いや、わたしが、笑っている。
でもそういうことは言わない、書かない。
なんでもないとは、ダンディの別名か。
ならば、意味は書かない。書かずに宙に止めておく。

どうにかして
この地上から飛び立てないかと
向うの方にかけ出して行ったら
蒸発するように
足が地からはなれ
空中で ? のような形にまとまっていた
- 藤富保男「ど」