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2014-01-15
他人の家ですが…


池袋に住んでいたことがある。
ある日、散歩の途中で着物姿の女性と連れになった。
素人だか玄人だかわからない。
着付けがおかしいから素人かとも思うが、そうでもないようでもある。
そのうち一軒の家の前に来た。
しもた屋ふうだが、わりに大きい。
東池袋にこんな大きな家があったかと意外な気持でいると、女性が言った。
「他人の家ですが、どうぞ」
遠慮しなくてもいいと女性はつづけた。
しかし、他人の家では入りにくい。
躊躇しているうちにぞろぞろ人が集まってきた。
服装の感じでは、大正時代の人が多い。
彼らも入っていいか迷っているようで、たがいに相談している。
いつのまにか連れの女性の姿が消えていた。
ひとりだけ家に入ったのかもしれない。