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2014-09-26
サーカス v2
十年ほど前、妹をサーカスに売った。
家族が生きてゆくためで、しかたなかった。

最近になって彼女の消息が知れた。
サーカス団の興行先に様子を見に行った。
テント脇の広い空き地にロープが張りわたしてあった。
夜だった。月の下で妹が綱渡りの稽古をしていた。
ロープは思いがけず強く張られていた。
月光を受けて、脛の筋肉が魚鱗のようにきらきら光った。
妹は鍛え抜かれた曲芸師に成長していた。
もう自分の妹ではないのだと思った。

男の子と女の子が木の椅子にかけて、妹の稽古を見ていた。
私の甥・姪ということでもあるのだろうか。
けれども表情が大人びていた。
子供ではなく小人だったかもしれない。