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2014-12-31
映画研究会
自分は映画研究会に入った。
「何もすることがない。何をしたいかわからない」
と青春ぽくぼやいていると、哲学専攻の K が
「それなら映画研究会に来い」
といって研究会に入れてくれた。
けれども、映画研究会の活動におぼえがない。
会合も会報もなかったし、イベントもなかった。
部室もあったのかなかったのか。
要するに研究会の実態に記憶がない。
K 以外のメンバーも知らない。
それ以前もそれ以後も K と映画について話したおぼえがない。
話をしたことがないくらいだから、いっしょに映画を見に行ったこともない。
そのうちに K はキャンパスから消えた。
消えてしまったので目に入らない。
目に入らないから、K がいなくなったことも気づかないでいるうちに夏休みに入った。
休みのあいだ一人で映画館に通った。

夏が過ぎても K はもどって来なかった。
誰も K の消息を知らなかった。
いったい映画研究会は実在したのか。
もちろん、K は実在した。中肉中背だったが姿が良く、女子学生にももてた。出身地の山陰の訛りを残していたが、それも耳にここちよく、魅力の一部のようなものだった。
そういうことはおぼえているが、肝心の映画研究会は実在したのか。
K の頭の中にだけあった研究会ではないのか。
その K がいないので、それも確かめようがなかった。
研究会は存在しなかったとしても機能はした。映画を見る習慣のない学生をひと夏のあいだ映画館に通わせ、駆け出しの映画青年にしたのだから。
とうとう K と再会することはなかった。
それから1年ほどして自分もキャンパスから消えた。
自分のことだから自分がどこに消えたかは知っている。