Magazine Oi!
2015-01-01
人恋しさを形にすると
こんな話を読んだ。

長いあいだ放置されていた武家屋敷がある。
幽霊が出るという噂だった。
その屋敷に引退した御家人夫婦が越してくる。
夫婦は噂を知っていたが、人間の幽霊のようなものを見ることはなかった。
かわりに、荒れた庭の植え込みの陰で黒くて丸っこいものが動いていたり、潜んでいるのを見かけるようになる。形状は大きな草履に似ていた。その黒い塊は空き部屋から顔をのぞかせたりすることもある。
やがて夫婦とその黒いものとのあいだに交流が生まれる。
二人はその真っ黒なものに「くろすけ」と名づけてかわいがる。
そのうちに夫婦は、くろすけが少しづつ小さくなっていることに気づく。
いくつかの出来事から、夫婦はくろすけの正体を推測する。
あまりに長く人と無縁だった屋敷が、人恋しさをつのらせて形をとったもの。それがくろすけではないか。
推測はあたっているようだった。
くろすけはしだいに生気を失い、やせ衰えてゆく。真っ黒だった身体も、ときに透けて見えるほどに存在が薄くなって、くろすけは夫婦との接触を避けるようになる。
くろすけの正体が人恋しさの形状化したものならば、人との接触によって存在理由が失せるのは当然である。このままでは、いずれくろすけは実体を失ってしまう。
くろすけの衰えを憐れみ、消滅してしまうことを惜しんで夫婦は屋敷を退去する。

そういう話である。どんな登場人物も多かれ少なかれ作者の分身であるという意味で、このくろすけも作者の分身にちがいない。人が人といることの楽しさ、おもしろさ、おかしさ、嬉しさ、そういう話が得意な作者にして、こんなものを造形するかと思った。
人間関係は疲れる。楽しかったり嬉しかったりもするが、わずらわしくもある。人を憂鬱にもし、ときには死に追い込むことさえある。コミュニケーションめんどくさい、人間関係かんべんしてくれ。そういう気持は誰もとらわれる。それをを可愛らしく具象化したものが「くろすけ」だったのだと思う。