Magazine Oi!
トマトは種を抜いてから食え
なんて今ごろ教えられても
すでにトマトは、腹の中で芽を出して
根も張って、とっくに手遅れ
- トマト男
2016-01-12
他人の家
雑司が谷の駅の近くで和服の女と道連れになる。
知り合いでもないし、道をきいたとか聞かれたとかでもないから、とくに話すこともない。だまったまま都電の駅のほうに歩く。
踏切の手前で、縄ばしごが下がっているのに気づく。
見上げると青空に穴があいていて、そこから縄ばしごがたれている。空の穴だからずいぶん高いところのようだが、目測すると五メートルくらいしかない。
女の顔をみるとうなずいたので、はしごを登ることにする。
どちらが先に登るかで迷う。女の腕で登るのがむずかしそうなら、下から押してやらなくてはいけないが、着物のすそからのぞき込むようなのはまずいだろう。結局、女と抱き合うような格好になって縄ばしごを登る。
穴の上に出ると、そこは東池袋。
不思議といえば不思議だが、雑司が谷から東池袋まで都電でひと駅しかない。張り合いのない不思議さ。
気持にけりがつかない感じがして、また二人で歩きはじめる。
今度は都電の線路にそって歩く。線路に平行な道がないから、踏切をジグザグに右へわたったり左へわたったりしながら行く。
女の足が少し速くなっている。何かあてがあるのだろうか。
昔のしもた屋風の家の前にくると、女が言う。
「他人の家ですが、どうぞ」
どういう意味だろう。戸惑っていると、女が言い直す。
「他人の家ですから、どうぞ」
「いいの?」
「いいんですよぅ」口調が蓮っ葉になっている。「遠慮なんかいりませんてば、他人の家なんですから」