Magazine Oi!
2016-01-31
吸血紀
人類が現れる以前の昔。
草っぱらで立ったまま抱き合う二人の吸血鬼。たぶん男と女。
日射しが薄ぼんやり青く、世界が全体に青っぽい。
男(たぶん)も女(たぶん)も青白い。
二人はたがいの首筋に噛みついて、血をすすりあっている。
その血も青い。青くて、まずそう。
「いつになったら、もっとおいしい血が飲めるのかしら」と女が言う。
「何万年先か、何百万年先か」と男。
「そんなに長く待たないといけないのね」
彼らは人類の登場を待っている。人間の血は熱くてうまい。そう聞いているから待ち遠しい。
「われわれ吸血族の血がまずいのは──」
と男が言う。血がうますぎると相手の血を飲み尽くしてしまう。それでは吸血族は滅びる。血がまずいせいで、必要最少量だけ吸いあって、たがいに不足する栄養分を補っている。血がまずいのは吸血族が生き延びるための欠かせない体質なのだ。
吸血族の愛情が薄いのも同じ理由による。愛が濃厚だと、やはり相手の血を吸い尽くしてしまう。だからわれわれは愛情が薄い。
「何を進化と見るかだ」
と男は付け加える。これまでの進化の途中で、血のうまさが増したり愛情が濃くなったりした吸血亜族もいたが、それらの亜族は短い期間しか存続できなかった。

男吸血鬼の説明で、彼らの血は不味かったのだとわかる。
それと、人類と同じように吸血鬼にも性別があったのは確からしい。
二人のやりとりを自分は木立の陰からうかがっている。いつのまにか時代が変わっていたのだ。今はあきらかに人類の登場以後。
「あらっ」と女吸血鬼がこちらを見る。
女の視線につられて男吸血鬼もこちらを見る。
二人で顔を見合わせる。
青白い二人の頬に血の色(?)がのぼる。
人類が現れた! その嬉しさで血の色まで変わってしまったのだろうか。
弾むような足取りで二人がこちらに駆けてくる。