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2016-02-06
用心棒
商家に住み込みでやとわれた用心棒が、その日のうちに殺されてしまう。
どうしてこんなことになったか。
あてがわれた部屋で寝ているうちにやられたから、その前後のことがわからない。なぜ殺されたかもわからない。
気がつくと脇腹に包丁を突き立てられて自分が死んでいた。

用心棒は鶴瓶に似ているが、痩せていて頼りない。
「つまらない人生をやってしまった」
とつぶやく。鶴瓶に似た顔で泣き笑う。

自分が死んだわけを知りたいと用心棒は思う。
立ち上がって自分の死体をながめる。
「こんなやつだったのか、おれは」
貧相で迫力がない。でも、自分である。色が黒いのは人足仕事で日焼けしているからだが、それなのに腕は細い。よくこんなので用心棒にやとわれた。外見も経験もひとに誇れるようなところがない。殺された理由がわかっても、それもくだらないことなのではないか。

別の部屋で店の主人が金魚鉢の金魚にエサをやっている。用心棒とは大違いで、生地も仕立ても高そうな服を着ている。顔の色艶もいい。
用心棒が部屋をのぞき見る。
主人が岸部一徳であることがわかる。岸部に似ているのではなく岸部本人。
・用心棒と鶴瓶は似ているだけの別人
・店の主人は岸部一徳本人
この別人であることと本人であることの違いに鍵がある。事件の謎がそこから解けるはずなのだが、用心棒は推理の糸口に気付かない。
岸部一徳が用心棒を見てにやりと笑う。出来事の真相を知っている笑い。