Magazine Oi!
2016-07-08
リーデンブロック教授


夜中の散歩に出た。
森林公園の広場にスプートニクが落ちていた。
スプートニクはソ連が打ち上げた世界最初の人工衛星。自分が聞いていたよりずっと大きく、球の直径が1メートルほどある。
その衛星を囲んで、三人、四人、複数のリーデンブロック教授がルーペでスプートニクを調べている。

オットー・リーデンブロック教授は著名な鉱物学者で、航空や海洋探査の工学にも詳しい。
自分も実物の教授を何度か見たことがある。
最初は例の地底旅行からもどったあとの講演会。
講演だから声もきこえた。低く落ちついた声で話し、学者にありがちな変わり者めいた外観とちがって、声だけなら社会的にも洗練された人物の印象だった。
その後も、裸の女たちが集まる夜の庭園や夜の鉄道駅でときどき見かけた。
裸の女たちといっても、娼婦などではない。10代から30代、どちらかといえば中流以上の品のいい女たち。薄衣を胸や腰に巻いた者もいるが、おおむね衣類はまとってない。
ところがリーデンブロック教授は女たちに興味を示さない。少なくとも性的な興味はなさそう。行き交う女たちをよそに、手のひらに乗せた鉱物らしいものをルーペで調べている。
だったらなぜ、教授は女たちのいるところを好んで(と見える)訪れるのか。
どうして、メガネ越しに裸体を観察するかわりに、ルーペで鉱物に見入っているのか。
自分が思うに、オットーは男性的なものが苦手で、女性的なものを心地よく感じるのではないか。
個々の女性ではなく、女たちがゆるく集まって作りだす女性的環境。
そういう場において教授は最も落ち着けるのだろう。見かけは男性だが、女性社会の人なのだ。

とはいえ、学者だから研究のためなら女性のいないところにも現れる。
今夜がそれで、見ればほかにも六人、七人、離れた場所からリーデンブロック教授がスプートニクを観察している。
そうこうするうちに、夜が明ける。
そしてまた夜になる。
教授たちがもどってきて、スプートニクの調査をつづける。