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2018-06-15
「アムステルダムの船員」の逆ミステリーな構造
オランダの帆船アルクマール号が、香料その他の高価な資材を満載してジャヴァからもどってくる。
船がサザンプトンの港に入って、船員たちに上陸の許可が出る。
船員の一人、ヘンドレイク・ヴェルステーヒは、右肩に猿、左肩に鸚鵡おうむをのせ、さらにインド織物をかついで上陸する。
「鸚鵡の買い手をお探しですか」
と身だしなみのいい紳士が近寄ってくる。

ギヨーム・アポリネールの「アムステルダムの船員」は、逆ミステリー小説ともいえる掌編。
ミステリー小説でははじめに謎が提出され、しだいに謎が解かれていって、すべてが明らかになった時点で大団円だが、この「アムステルダムの船員」は上のようにはじまって、少しずつ謎が構成され、謎ができあがった時点で話が終わる。
船員ヘンドレイクはその謎の構成要素である。猿や鸚鵡も同じ。
途中で鸚鵡が籠に入れられて驚いたりする。驚くのは鸚鵡自身であって、ほかの登場人物ではない。
最後に意外な主役が設定されてジ・エンド。

肝心のコンテンツを欠いた推理小説ともいえる。あるいは、メイキング・オブ・ミステリー。
短編集『異端教祖株式会社』(1910年)所収。