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トマトは種を抜いてから食え
なんて今ごろ教えられても
すでにトマトは、腹の中で芽を出して
根も張って、とっくに手遅れ
- トマト男
2005-08-06
赤い河の谷間
約束の、智恵を欠く男が、やがて迷い込む谷間 ―― 赤い河の。口笛。幸運の口笛。あれは何のメロディだったか。何の合図だったか。思い出させてくれよ、なあ、あのメロディは何の約束だったのか。せめて、知りたいよ。

何のために
おれ
赤い河の谷を

嘘だけはいけない、嘘をつく奴を、兄貴、許しちゃいけない、そうだったよな、そう言ったよな、あんた。朝から晩まで、嘘、嘘、嘘。いやだ、おれはいやだ。口笛。合図の口笛。愚者に絞られる罠。手に手に銃を、正義の執行にはやる男たち。ポリティカルでなければ生きられない世で、ポリティクスを欠いた男を待ち受ける最期。おれはできない、いや、おれはしない。駆け引きなんて。なあ、そうだろ。裏と表。どうして。駆け引き、駆け引き、駆け引き、どうしてみんな、本心を言ってくれないんだ。どうしてはじめから本心を言わないんだ。追跡者の確信 ―― 正義の。せめて、おれが、口笛をもっとうまく吹けたら、兄貴(どこにいるんだ)、うまくいったのかよ。もう嘘をつかなくてもすむ、そう言ったじゃないか、あんた。金さえあれば、そうだった、金さえあれば。金さえあれば、駆け引きはいらない。おれが札束を見せる。千ドル。万ドル。それでおしまい。金さえあれば、誰にも嘘はつかせない。誰にも駆け引きなんかさせはしない。教えてくれ、おれはうまく吹いたよな。約束の口笛を、約束どおり吹いたよな。

赤い河の谷に
いつか春が巡って
すると
あなたが谷に帰ってくる

赤い河の谷に
赤い花が咲いて
そして
あなたが谷に帰ってくる

赤い河の谷の
わたしが待つ岸に
やっと
あなたは…

そうだった、何のために、おれ、この河を。誰かがおれを待っている。でも、誰が。誰がだよ。ガキのときから、おれなんか、独りだったじゃないか。おれを待っている、待ちわびている、そんなやつがいるのか。思い出せない。見せてくれよ、お前の顔。見せてくれ、頬の雀斑を、はれぼったいお前の瞼を。

赤い河の谷は
今日もあなたを待って…

愛されていれば逃げ切れる。そうだったよな。兄貴、あんた逃げ切ったかい。愛されてるかい。きまってるよ、なあ、愛されてるにきまってる。あんた、男前だったもんなあ。だから兄貴、おれの分まで生きて、逃げて、逃げて、逃げ切ってくれ。いいか、やつは始終口笛を鳴らしてる、とんでもなく下手糞な。発信機をつけて逃げてるようなものじゃないか。もうすぐさ、この河にはまったからは。赤い谷で行き止まり。人殺しの末路がどんなものか、教えてやらなくちゃならん。世の中をまっとうに生きるってことがどんなことか。勝手な真似はさせるな。どうしてだよ、どうして河がこんなに赤いんだ。教えてくれ、嘘をつかないおれが、どうしておれが。追跡者は予感に心を震わせながら。赤い河の谷を、鮮血でさらに染めるその時を、ひそかに、言葉にこそしないが。疲れたよ、もう目が見えない。せめて。ああ、おれは、せめて、何なのだ。そんなことも。

赤い河の谷の百の照準
スコープの中を
照星の上を
口笛吹きつつ