Magazine Oi!
トマトは種を抜いてから食え
なんて今ごろ教えられても
すでにトマトは、腹の中で芽を出して
根も張って、とっくに手遅れ
- トマト男
2016-01-04
ジュラシックモーニング
夜明け前。ジュラ紀の地表に沿って時空飛行船がゆっくり進んでいる。
操縦士は真ん中の席で居眠りをしている。
3つ並んだ操縦席の左右は空いている。あとの2人はまだベッドで夢でも見ているのか。

どこから忍び込んだか、それともわいて出たのか、3匹のジュラシックが操縦士の背後からうかがっている。どれも体長2メートルほど。この地質時代と同じ名前で呼ばれるジュラシックは、ジュラ紀を代表する中型爬虫類。
その3匹が操縦士を襲う。抵抗するまも与えず食ってしまう。血まできれいになめつくして、あとに何も残らない。
操縦士不在のまま航行をつづける時空飛行船。
丈高いシダ類の林に突っ込んだり、イチョウの巨木に激突したりする。
飛行船は操縦士の脳波とAIで動いている。操縦士が覚醒していればおもに脳波の指示にしたがい、操縦士がいなければすべてAIが判断する。操縦士が妙な夢を見ていたりするより、不在のほうが航行は安定する。
岩や巨木や巨大獣にぶつかっても問題はない。そんなときは、時間退避と空間退避の機能が適切な組み合わせで働いて、イベントはなかったことにされる。

2人の操縦士が起きてくる。
操縦室を赤いトンボが群れ飛んでいる。
「またか」とひとりが言う。
「どこからわいて来るのかね」ともうひとりの操縦士。
言ってみただけである。2人とも深く考えたわけではない。操縦席に腰をおろして脳波を働かせれば、トンボなどはすぐに消える。
アンモナイトが床をはい回っている。バスルームにつづく通路から始祖鳥が飛び込んでくる。それらもすぐいなくなるだろう。
ところが、2人のつもりとは別のことが起こる。
操縦席についた2人はジュラシックに襲われる。最初のひとりと同じように食われてしまう。
操縦者が全滅しても航行をつづける時空飛行船。それでもAIの働きでいつか現在の地球に帰還するのは間違いない。

時空飛行船の前方に日が昇る。
ジュラ紀の夜明けは美しい。地上の丘や谷から空の雲まで、もちろん動植物も、真紅、薄紅、橙、赤紫、さまざまな色合いの赤に染まる。その光景を楽しんでいるのは、いまや人間にかわって操縦席を占める3匹のジュラシック。
爬虫類の脳波で操作される時空飛行船が現在の地球にもどるまでに、どんなことが起こりうるか。
すべての地質時代がジュラ紀として塗り替えられ、現在に至るまでひとつづきのジュラ紀。そんな事態も考えられる。