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トマトは種を抜いてから食え
なんて今ごろ教えられても
すでにトマトは、腹の中で芽を出して
根も張って、とっくに手遅れ
- トマト男
2017-05-31
じつは
盗賊袴垂はかまだれ保輔の一味・壬生の五郎又、じつは元大名の樋爪九郎国連。
平正盛の足軽・鬼住山平、じつは袴垂の手下・辻風さぶ六。
蜘蛛の精霊、じつは平将門の娘・七綾姫。
話は京都ではじまる。やたら「じつは」の多い物語。
髭黒の左大将こと藤原道包の天皇即位式が、諸羽社で行われようとしている。
その支度が進められている中、源家が神社に奉納した宝剣を瀧夜叉という親爺が盗んで逃亡する。じつは宝剣は偽物で、この盗難は源家が仕組んだ擬似イベント。瀧夜叉もじつは源氏の武士。

舞台は丹波街道沿いの栗ノ木村に移る。
近隣の不具者を集めてきて、見世物として京、大阪、江戸に売っている栗ノ木又次、じつは平将門の遺臣・海上刑部太郎。
又次の二人の娘のうち姉はお浦、じつの名は浦辺。
妹娘のお栗、じつは取り替え子でじつの親は貴族の藤原常俊。
栗ノ木村に滞在する江戸の見世者師・善幸は、又次や山賊と組んで悪事の徒党を集めようとしているが、登場人物たちが奪い合っていた宝鏡を手に入れると、「これで築地に帰れるわ」と言い残して消える。「築地に帰る」とは、「これにてお役御免。虚構の世界から抜けて、江戸の現実世界にもどります」というほどの意。思わせぶりな設定の人物だが、善幸じつは善幸のまま。
栗ノ木村を訪れた二ノ瀬村の狩人・源六、じつは源頼光の家臣。
冬至のお札配りに来た修験者、じつは皇位簒奪をはかる勢力の一味・大江郡領政平。
飛脚の丹波太郎、じつは山賊の頭。
酒問屋の勘太、じつは丹波太郎の手下。
平将門の遺臣・御厨七郎俊連、じつは頼光四天王の一人・卜部季武の前身。お浦こと浦辺の名を引き継ぐ。
藤原常俊の娘・鶴の前、じつの親は栗ノ木又次。

源氏の統領・源頼光の館に煙草売りに扮した女が強引に上がりこむ。じつは市原野の女乞食・お芳。
それを妨げようとする奴・花平、じつは冒頭の刀泥棒・瀧夜叉。
同じく咲平、じつは源家の武士で白川文丸。
続いて二人の上使が頼光の館を訪れる。
最初の上使Aは三田源太広綱と名乗り、頼光が所持する名剣、蜘蛛切りと鬼切りの二刀を差し出せと求める。刀は何者かに盗まれて館にないのだが、病床の頼光にかわって応対した園生の前は「後刻さしあげまする」とこたえて引き伸ばしをはかる。
あれこれあるうちに二人目の上使Bがやってきて、上使Aと同じく三田源太広綱を名乗り、同じ二振りの刀を求める。
二人の上使の真偽がつかないまま、館側は接待につとめ、それぞれの好みでくつろいでもらおうとする。
上使Aは、通された部屋で長裃のまま鉢巻をしてあぐらをかき、茶碗酒を飲みながら、火鉢にかけた小鍋で料理をしている。
上使Bも長裃のまま、こちらは上品に花盆に山茶花を生けている。上使Bの部屋に腰元たちが世話をしにやってくると、Bは「女は嫌いだ、近寄るな」といって追い払う。
かわりに頼光の弟・美女丸があらわれると、上使Bはごきげんになって美女丸に寄り添う。Bが美女丸のふところに手を入れると乳房が触れて、じつは美女丸は女とわかる。「女でもいいか」とBの気持がかわって、二人はその場でできてしまう。
上使Aの部屋では園生の前がみずから相手をする。酒を飲むうちに、園生の前は窮屈だといって緋の袴を脱ぎ、上使Aも裃を脱ぎ捨てて、この部屋でも二人はできてしまう。

上使A、じつは市原野の乞食頭・つづれの次郎で、先に来たお芳の仲間だが、それも仮の姿でじつは盗賊の首魁・袴垂保輔。
上使B、じつは平将門の遺児・将軍太郎良門。
頼光の北の方・園生の前、じつは用心のため頼光側が立てた代役で、武家のむすめ三崎。
頼光の弟・美女丸、じつは頼光家臣のむすめ小式部。
袴垂と三崎は、じつはいいなずけ同士であったことが判明して婚礼の式がはじまるが、そこにかつて袴垂と情をかわしたことのある田舎娘・お岩が乱入して、
「ほんにマア、なんの因果で都へのぼり、つらい憂き目に逢うぞいな。やっぱり在所で麦畑の霜ふみつけがましじゃもの。情けない身になったわいナア」
と嘆くが、このお岩がじつは平将門のむすめ七綾姫で、将軍太郎良門の異母姉。
二人の上使に先立って頼光館を訪れ、やはり難題を持ちかけていた尊国君が頼光の子を刺し殺すが、じつは殺されたのは七綾姫と袴垂の子。
その尊国君、皇位簒奪の一派に与すと見せかけて、じつは源氏の武士・秦の次郎正文。

鶴屋南北の『戻橋背御摂もどりばしせなにごひいき』は、文化10年(1813)に初演された顔見世狂言。
ジャンルは通俗史書の『前太平記』から材料をとった前太平記物。
このジャンルの基本型は平将門残党と頼光ひきいる源氏方の戦いだが、この芝居の前半では、これに加えて帝位を僭称する髭黒左大将の一派、さらに盗賊として資金を稼いで天下を握ろうとする袴垂一味の四勢力が入り乱れて争う。

『戻橋背御摂』の後半は、江戸を舞台とする藤原純友の遺臣らと源氏方の駆け引き。
切見世(下級の女郎屋)の亭主・鬼七、じつは藤原純友の遺臣・伊賀寿太郎。
鬼七の女房・お綱、じつは純友の侍女・苫屋。
切見世の女郎・三日月お仙、じつは苫屋が生んだ純友の遺児。
魚屋の海老雑魚の十、じつは頼光四天王の一人・渡辺綱。
切見世の路地番・喜之助、じつは渡辺綱の家臣・三崎の藤内。
貸し物屋の金六、じつは渡辺綱の草履取り・三田平。
獣屋けだものや(獣肉店)の権助、じつは渡辺綱の奴。

最後は、病の癒えた源頼光が鎮守府将軍として東国に赴任する途中、足柄山で坂田公時(おとぎ話の金太郎)を見出す舞踊劇。
山賤・斧右衛門、じつは源氏方の老臣・三田仕。
山賤・鉄蔵、じつは市原野の盗賊・鬼同丸。
馬子の胴六、じつは皇位簒奪を目指す勢力の一員・夜叉太郎国秀。
賤女・紅梅、同じく白梅、じつは源氏方からひそかに遣わされた頼光警護の娘たち。