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2009-06-07
秋獺(あきうそ)
友人を誘って温泉に行った
行きたがらないのを
無理に誘った
誘わなければよかったと
今は思う
宿に着いても
友人は湯に入りたがらず
しかし、翌朝
まだ目覚めきってない友人に
手拭を持たせると
あいまいに笑うみたいな顔で
風呂についてきた

ずっと後になって
古い句集に、こんな句をみつけた
「秋うそ寒しいつも湯嫌い」

そうだったのか
あいつは秋獺というものだったのか
温泉宿のあの朝
友人は正体が現れるの恐れて
そうなる前にと湯煙の中へ消えたのだった
つまらないことをした
温泉なんか
一人で行けばよかったのに
ほかの連中の都合が合わないからって
川獺を誘うことはなかったよ

もっと後になって
ばかだね、おれ
という発見があった
「秋獺、寒し」
ではなくて
「秋、うそ寒し」
に決まってるだろう
秋獺なんてものが
いるわけないじゃないか
たしかにその通りで
わたしは古句を読み違えていたのだが
じゃあ、あの朝
あいまいな笑いを残して
湯煙に消えた友人のことは
どう考えればいいのか