to top page
2011-05-02
同窓会
私は小学校の同窓会に行った。
当時は、家ごとに舟で暮らしていた。学校も舟の上だった。
私自身は、生まれたのも川舟の上だった。
何十年ぶりかなのに、旧友らは昔の面影を保っていた。
もちろん記憶から外れてしまった顔もあったが。
明ちゃんは小じわの目立つお婆さん顔になっていた。
「ごめん、明ちゃん」
まずい感想を持ったことを、私はあやまった。
「え、なんなの」
「いや…」
「そんな、いつまでも気にすることないのに」
明ちゃんは何か別のことを思ったようだった。
ドッジボールやソフトボールの話は、私にはおぼえがなかった。
女の子たちの縄跳びや鞠つきの話も妙な気がした。
そんな陸上の遊びを、私たちはしてたのか。
映画やテレビの中のことのようで、みんなと記憶が食い違っていた。
揺曳感がもどってきた。
波に揺られる舟の上の感覚だった。
私は懐かしさで涙がこぼれそうになった。
浮遊感もよみがえってきた。
川を潮が上がってくるにつれ、外の景色――船着場や岸の建物――が
沈み込んでゆく時の、うれしいようなあの感じ。
水上生活の時代のことは、同級生たちは忘れてしまったようだった。
教師が何か話しかけてきた。