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2011-10-03
ラクダ集
こんなところに

イノシシとなって
住宅街をうろつく
カラオケ帰りの OL に突進
パトロールの自転車に体当たり
早起きの豆腐屋に暴れこんで
道具を蹴散らし、居間を駆け抜け
また裏通りを走っていると
ああ、こんなところに
ヒトデが落ちてる
電柱の陰から
ラクダが顔を出している
おれ一人ではないんだよ

心象風景

背景は満天の星。星条旗みたいな星空がいい。青黒い空に、赤や橙、黄色の★。住宅街の道。イノシシの頭から吹き出しが出ている。吹き出しの中は、怒り狂っているか呆然としているかの、豆腐屋のオヤジ。あまりきめ細かく画像を処理しないこと。いかにもコラージュっぽく、雑誌からハサミで切り抜いてきたような大雑把な仕上げにする。路上にヒトデ。空の星が落ちてきたようにも見える。コントラストを出すには、ヒトデは赤く、空の星は赤くないほうがいいかもしれない。電柱の脇に首を出しているラクダ。胴体はどこに? 胴体は電柱の陰に折りたたまれているのかもしれない。ラクダにも小さな吹き出し。砂漠を行くキャラバンの遠景。砂丘に隠れて弾込めをする兵士たち。

コンテナ物語

ああ、港にはキリンがいて
僕が作りたかったのは
ラクダとイノシシとヒトデの
物語だったのだが
ラクダをキリンに差し替えて
いや、ラクダはそのままに
キリンを追加起用して
もとの舞台は
坂の多い住宅街だったが
これを港にも広げて
沖に無数のコンテナ船
時代はといえば、二十世紀後半
世界はすべて、誰が知ろう
パナマ運河の幅に規定されていたなんて
コンテナを載せるコンテナ船の幅も
したがって、コンテナの大きさも
そして、建物の窓も
なぜなら、窓はコンテナを通す幅が
なければならないから
あらゆるロジスティックも
したがって、戦争も平和も
なにもかもがパナマ起源だったなんて
イノシシがうろつくほかに
取り立てて面白みもない住宅街が
住人は知らず、じつは
パナマの見た夢だったなんて
その夢の中に
赤いヒトデが落ちているところから
物語は始まる

いつかの夜の

やはり気になるのは
いつかの夜の
電柱の陰から半身を出して
こちらを見ていたラクダのこと
どこから来たのか
あとの半身はどこにあったのか
何を考えていたのかいなかったのか
同じ夜の同じ場所で
路に落ちていた赤いヒトデのことも
もちろんまだ忘れてはいない
自分の思ったとおり
あれが地上に迷い込んだ
星だったとして
もとの居場所に
帰れたのか帰れなかったのか
イノシシだったおれはと言えば
ここでこうして
煙草を噛んでるところだが