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2011-11-03
浪曲リンゴー・キッド
なにが悲しいのか
トゥームストンから、アンテロープ、ソルジャーズヒルと
牧場から牧場をはしごして、十日と十夜、飲みに飲みつづけ
十一日目の夜はサルファスプリングス
奥さん、あんたにはわからない
本人のおれがわからないんだから
他人のあんたにわかるはずもない
そして十二日目の朝早く
台所をぶち壊された未亡人に見送られ
日の出とともに馬に乗る

誰にも知られた
名はリンゴー
年は三十路も、はや半ば
死ぬにはちょうど、ころあいの

保安官補のビルが言うには
ドラグン山の峠で会ったよ
あいつ、幽霊みたいだったなあ
ふもとを見下ろす岩の上で
顔青ざめて、まだ飲んでたよ
あれが最後のボトルではなかったか
飲み終えると、岩に叩きつけて
ふらふら峠をおりてった

十三日目の夕方ちかく
サルファスプリングス渓谷の
樫の根元に腰をおろし
右手に拳銃をにぎりしめたまま見つかったのは
もう生きてはいないリンゴー・キッド
右のこめかみに射入孔
左のこめかみから噴出した脳漿が
樫の幹にはり付いて
ゴムみたいに固まっていた

なにをしに
どこへ行こうとしてたのか
背中の幹に自分で刻んだ墓碑銘は
「たぶんテキサスから来た男」

歌う or 語るつもりで、ところどころメロディも付けてあるが、文章表現としては通じても、歌うと意味の通じなくなる箇所があり、とくに最後の一行など、それらが解決したら全体の曲付けができそう。次のような版もあり、そのうちリンゴー・キッドで一本歌う。

(ウタ)
人に知られた名はリンゴー
もとはといえばテキサスの
食うや食わずの百姓の子
十と二つのその年に
お前このうち出て行けと
じつの親から間引かれて
とぼとぼたどったエルパソ街道

(コトバ)
わかったよ、おとう、おっかあ
おいら、いつかは名をあげて

(ウタ)
てめえら二人、見返してやる
おりから沈む薄い夕日に
ひとひらふたひら花かと見えて
雪の降りそむ晩い秋