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2012-02-17
文学でヘミングウェイに勝つ方法
ヘミングウェイがボクシングに熱中していたころのこと。
おれは一番うしろの席で見ていたが、ヘムが相手を遊び倒したところで、リングサイドまで行って彼に試合を申し入れた。
「ボクシングの経験は?」とヘム。
「ありません」とおれ。
「おとといおいで」
ヘムは馬鹿にしきった態度だったが、挑戦は受けた。
おれはくわえ煙草でリングにのぼった。
自在にパンチを繰り出して、ヘミングウェイをロープに釘付けにした。ヘムは倒れたくても倒れることができなかった。前のめりになるたびにパンチを出して、やつの身体を起こしてやったからだ。
ヘムをノックアウトして更衣室にもどり、シャワーを浴びた。
もちろんヘムの更衣室でだ。
のびたままのヘミングウェイが運ばれてきた。
やつの取り巻き連中が、ぞろぞろおれのほうに移ってきた。
上流階級の女もいた。学歴も、肉体も、顔も、服装もなにもかも備わった女だった。
誘われるまま、女の家に行った。
用心棒だかヒモだかわからないが、トマス・ウルフが部屋にいた。トマスを追い出してわれわれは寝室にこもった。
翌朝、ヘミングウェイの取り巻き編集者たちからつぎつぎに電話が入った。
おれの短篇集を出したいと言うのだ。もちろんおれは了承した。

以上、ブコウスキーの短編「上流階級のオンナ」のあらすじ。
小説の中でヘミングウェイを倒したのだから、文学で彼を倒したことになる。トマス・ウルフも道連れに。