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2014-05-31
エンゲルス・ラップ
ごめん、ごめん、おれ、エンゲルス
知ってるよな、フリードリッヒ・エンゲルス
知らないの? 知らないか、昔は有名だったんだが、まあ、いいや
今からあやまるから、よく聞いてくれ

あのな、「共産党宣言」てあるだろ「共産党宣言」
あれ、おれが書いたの、マルクスといっしょにな
マルクスが死んでからは、おれ一人で「空想から科学へ」というのを書いた
それでよ、これが両方ともトンデモなわけ
資本家が好き勝手にしてる世の中はよくない
とおれたちは思ったわけよ
生産手段の私有はいかん、と考えたわけよ
だから資本主義の社会は終わらせて、社会主義を経て共産主義へ
というチャートを描いたわけよ
それについては、今までの社会主義は間違ってる
社会主義者って、頭の中だけで考えてて
ちっとも科学的でない、それは空想社会主義というものである
だから「空想から科学へ」とおれは唱えたわけだ
いつまで絵空事で喜んでんだ、科学的にやれ、科学的によ
そう言ったわけよ、おれやおれたちは
これからは唯物史観だ、事実に即して考えろってな

唯物史観によればだな、
資本主義は早晩行き詰まって社会主義に移行し、
社会主義を経て、理想の社会であるところの共産主義社会が実現する
だから、言ったわけよ
「立て、万国の労働者」って
「団結せよ、万国のプロレタリアート」ってな
な、お笑いだろ
えっ、どこがお笑いかわからない?
そうか、わからないか
まあ、無理はないよな、マルクスもわからなかったし、おれエンゲルスもわからなかった
だけどな、これ宗教なわけよ
いつか救世主が現れると宗教家は言うわけよ
だったら、待ってりゃいいだろう
でも「待て」とは宗教家は言わない
救世主が現れるように信仰者は努めろって、なんだ、それ
予言が当たらないから、信者をたきつけて予言を実行させるわけよ
唯物史観も同じでよ、歴史の必然によって共産主義社会が実現するのなら
どうせ実現するんだから待ってりゃいいだろ、待ってれば
資本主義が発展しなけりゃ社会主義にならないんだから、せいぜい資本主義社会が発展するようにつとめる
それが正しい唯物史観的生き方っていうもんだろうに
なんだよ、立ち上がれ労働者って
資本主義の成熟に向けて働け! 唯物史観を信じるなら、それが正解だったのに
馬鹿なのマルクスって? 馬鹿なのおれって?
そうです、おれたち馬鹿でした
だからさっきから、あやまってるわけよ、ごめん、ごめん、皆さんごめんて

あのな、唯物史観は正しいわけ
どう正しいかと言えば、科学といいう意味で正しいわけ
つまりよ、反証可能なわけよ、だから科学なわけよ
それでよ、立て労働者! ってのも正しいわけ
どう正しいかと言えば、思想として正しいわけ、感情として正しいわけ
そりゃそうだよな、感情が誤ってるなんて言われたら、人は生きては行かれない
だから、立て! 資本家を吊るせ!――これは正しい
けれどもだ、けれども
正しいことを二つつなげたら、やはり正しいかといったら
そうはならない、つまりだな
資本主義社会は必然的に社会主義社会に移行する、だから資本家を吊るせ! ――これはインチキ
科学と思想をくっつけてはいけない
科学と思想がくっつくと宗教になる、おれたちが否定した宗教にな
だから、ごめん、おれたちが唱えたのは宗教でした
宗教否定しながら宗教やってたんだよな
詐欺師でした、おれたち
科学的に正しいから自分の思想は正しいなんて
そんなふうに考えなくていい、そんなふうに考えてはいけない
科学なんかどうでもいい、史観なんかどうでもいい
科学は科学、思想は思想、別物なんだよ
「科学から空想へ」、今度生まれてきたら、そういうのを書くからよ