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2016-01-23
母をたずねて三千里
母をたずねて三千里の旅をつづける少年が日本に来ている。
少年は旅費をかせぐため都内のクレープ屋でアルバイトをしている。
そのうわさを聞いたテレビ局のプロデューサーがドキュメンタリー番組を企画して少年を探すが、もう一歩のところで接触に失敗する。
しばらくして、少年が別のクレープ屋にいるとの情報。

はじめのアルバイト先はビルの一角を借りた店だったが、今度のクレープ屋は小型トラックを改造した屋台。気のいい青年が一人でやっている。人手は足りているのだが、少年に頼まれてやとった。
少年「ぼくは母をたずねて旅をしているのです」
青年「そうか、たいへんだなあ」
「日本のクレープはとてもおいしいです。作り方をおぼえて、母に会えたら自分で作って食べさせたいと思ってます」
「すぐおぼえられるさ。お客さんのいない時間にやってみるといい」
「ありがとうございます。でも…」
「でも、どうした。遠慮しなくていいんだよ」
「はい。でも。ぼくはここをやめなければなりません」
「どういうことなんだね」
「テレビに目をつけられています。どこの国でもぼくはテレビや新聞に追いかけられてしまう。かわいそうな少年とか、けなげな少年とか、あの人たちはそういう話をつくるのが好きなんです。ぼくはそうじゃないのに」

クレープ屋を転々とする少年。
なかなか少年がつかまらないので、プロデューサーは両面作戦を取ることにし、少年の探索と並行して少年の母親を探しはじめる。ニュースショーの中で短い時間をもらい、少年の旅の「再現映像」を流すと全国から少年の母親が名乗り出てくる。
「行ける!」と確信するプロデューサー。
企画が通って、一時間枠の母親探し番組がスタートする。審査員と視聴者の投票で母親を決めるコンテスト型式。少年を捨てた母親の不運ないきさつに同情が集まり、勝手な言い分に怒りが沸騰したりする。ネットメディアでは母親たちのプライバシーあばきが真偽まじえて横行し、番組も高視聴率がつづく。

都内を逃れて山梨にむかう少年。
それを追うテレビ局の少年探索クルー。
少年はさらに長野へ。

母親決定コンテストは順調に進み、最終候補は二人に絞られる。
決勝戦の公開録画が東京ではじまるころ、ついに少年探索クルーが日本海側の崖上に少年を追いつめる。
そこは自殺の名所としても知られる場所。
崖のはるか下に冬の荒波が白く泡立っている。
現場クルーのディレクターに東京のプロデューサーから電話がかかる。
「ドキュメンタリストとして腹をくくれ。自分の感性を信じるんだ」
なにがドキュメンタリストだ、また現場に責任を押し付けて、とディレクターは思うが言い返せない。少年の旅をどう終わらせるか、決断を迫られるディレクター。