東京湾の名前
船が浦賀水道にさしかかる。
「ここから先が東京湾か」と布袋が言う。
「馬鹿か、おまえは」と別の七福神が言う。
江戸時代だから、東京という名はまだない。したがって東京湾という名称もない。
七福神それぞれが、勝手なことを言う。
「じゃあ、なんて呼ぶんだ」
「さあな」
「江戸前とか、佃沖とか、品川沖とかは言うな」
「じゃあ、東京湾全体はどうするんだ」
「知らねえよ」
「東京湾がなかったということは、湾そのものがなかったということか」
「たぶんな」
宝船のクルー。
布袋──料理長。大食い。
恵比寿童子──少年。関東平野のどこかで父親が一人暮らしをしている。
大黒──船長。好人物。
毘沙門──短気。乱暴者。
弁天──ミュージシャン。琵琶奏者。
福禄──軍師。
寿老人──長老。物知り、ただし、でたらめ。
関東平野もなかったときいて、恵比寿が泣き出す。じゃあ、親父はどこにいるんだ。関東平野がないということは、親父もいないということか。
恵比寿をなぐさめる仲間たち。
「関東平野はなくても関東はある。関東平野のどこかではなく、関東のどこかと考えればいい」
宝船の一行が赤穂事件に介入するも、吉良上野介の救出に失敗。
四十七士の大高源吾が宝船を目撃?
源吾と句をやりとりする其角は、七福神の誰かが扮した偽物。凡庸な句を作って源吾を勇気づけてしまう。
江戸時代全史? 元禄時代から明治維新まで?