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2017-07-01
逃亡者
アメリカ南西部の田舎町。
温厚な人柄で、年齢は52歳。
スカイラー・ランバートと結婚し、年齢は52歳。
ウォルニア工科大学卒、高校の化学教師、温厚な人柄。
愛車は2004年式ポンティアック・アズテック。
陽子のエックス線撮影に関する研究でノーベル化学賞の獲得に貢献。
メタンフェタミンの製造では、生真面目かつ合理主義と分析力と素早い決断を迫られ、以降はスキンヘッド。
ガンの治療中に脱毛が増えはじめる。

線路とホームを行ったり来たり、ニワトリが遊ぶ鉄道の田舎駅。
駅前広場で毎朝100部だけ配られるハガキ大のの新聞。
ラムネ売りの男が受けとって読むと、ウォルター・ホワイトの死亡記事。

ウォルター・ホワイト
別名ハイゼンベルク、52歳、日曜日に銃撃戦で死亡しました。
Gray Matter 社の共同設立者にしてオーナー。彼の生成したメスは既存のものに比べ、純度が高く効果も高いが、やがて風邪薬から抽出するプソイドエフェドリンでは生産が追いつかなくなり、メチルアミンを利用した生産方法に切り替える。そのメスが「ブルーメス」です。
麻薬製造と学校講師の二重生活で家庭は崩壊し、販売網が拡大するにつれて抗争が激化するなかで、道を切り開いてウォルター・ホワイトは麻薬界の大物に成長、「ブルーメス」が市場を握ったのです。
葬儀は昨日、身内で行われました。
お志のあるかたは、献花のかわりに麻薬乱用防止活動への寄付をお願いします。

家族にカネを残すために、高校の教え子と組んでメス(メタンフェタミン)の製造に手を出し、裏世界での名はハイゼンベルク。
「温厚って書いてあるけどな」とラムネ売り。
「そうらしいな」と新聞配り。
「ハイゼンベルクって売国奴じゃなかったか」
「そういう話だ」
温厚な人柄で、年齢は52歳。
アメリカ南西部の田舎町。
広場にもどって地面をつつき回るニワトリ。
母校のウォルニアでも、以降は黒の帽子とサングラスを着用。
化学賞の獲得に貢献した論文の行方。
ウォルターは温厚な人柄で、ガンの治療に功あったエリオット・シュワルツと後に大企業となる会社を創設。
温厚な人柄で、ガンの治療中に脱毛が増えはじめる。
以降はスキンヘッド、トレームの眼鏡を着用。
給与は低く、洗車のアルバイトを掛け持ちしている。

「もしかして、あれか」と指差すラムネ売り。
広場に面した洗車場でホースから水をかけているウォルター・ホワイト。
「ああ、あれだ」と新聞配り。
「死んだことにしちゃったのか」
「死んでしまえば、もう追われることもあるまい」
「同情してるのか」
「まあな」
「売国奴でもか」
「売国なんて、上から下まで誰でもやってることさ」
こちらの二人に気づくウォルター。帽子のつばに手をやってあいさつを送ってくる。
新聞配りは手をあげて応える。
「ばればれじゃん」とラムネ売り。

新聞の裏面にウォルターの遺書。
私はことにこの町を愛した。
私はこの重々しく、流れ速き河を愛した。
私の見た男女は、すべて私に近しい者たちだった。
その他の人々も同様だった──私が予見するがごとくに、私を回想する他の人々。
時はやがて来るだろう。たとえ私がこの日この夜、ここに足を止めてしまうとしても。

悪がなんであるか知っているのは、お前たちばかりではない。
悪がなんであるかを知っていた彼は私だ。
私もまた自己矛盾という古い謎に迷い入ったのだった。

ここはニューメキシコ州の北西部に位置する人口5万足らずの小さな町です。
かつては交易の中心地として栄え、19世紀以降入植者が急増、農牧業が古くから盛んでした。ほとんど知られていませんが、原子力研究の最先端基地が置かれた時期もあります。