oi-quot no.7

[2020.9.1 - 2020.9.30]

2020.9.30 wed. link

2020.9.29 tue. link

出口という課題設定。

ニック・ランド『暗黒の啓蒙書』は、現状からの出口イグジットとして、遺伝子工学による新たな種への進化を提起して終わる。
最終章に至っての論理の飛躍についてはおくとして、出口の先に出現する新しい種と自身との関係を著者はどう考えていたか。
白人の側、黒人の側、どちらの側に自身を置くにしろ、著者が新しい人種の一員と見なされることはないだろう。かりに白人の遺伝子を改造して新しい人種を創り出したところで、(白人と思われる)著者が新人種から同胞として扱われることはなかろう。新人種が登場して世界を握ったあとでは、白人も黒人も旧人にすぎない。

出口を探すという考え方。
加速? 逃亡? 忘却? 実存主義? 老荘? 暴発?
――――
誰が言っていたのか忘れたが、効果的なプロパガンダというのは、「これはウソである」というメタメッセージを忍び込ませてある、と。受け手はそれを知りつつ、ウソの共犯性をつくることがプロバガンダの本質なのだ、と。 ――清義明 on Twitter

トランプの場合、存在そのものがウソで塗り固められていることなど支持者は気づいていながら、だからこそ支持するということなのではないかな。
だから支持者にそれがウソであるといっても逆効果で、問われるのはそのウソの巧拙ということになる。 ――清義明 on Twitter

きれいごとだけ言って生きていける層への反発も考えられる。
嘘をつくことへの寛容、さらには共感。

2020.9.28 mon. link

2020.9.27 sun. link

2020.9.26 sat. link

2020.9.25 fri. link

人間の解剖は、猿の解剖のための一つの鍵である。より低級な動物種類にあるより高級なものへの予兆は、このより高級なもの自体がすでに知られているばあいにだけ、理解することができる。 ――9月10日メモ

マルクスのこの言は要注意。結果を見れば起源がわかると短絡させてはならない。そのような理解は目的論。
パンダの親指の論、および9月3日メモと対照のこと。
――――
こんな怖いアドバイスしてるのか。 思いっきり潰す気なんだ。 #報道1930

中小企業をつぶせ!
合併で賃金が上がるとは言うが、クビになる者のことは言わない。
少数の上層のために社会を最適化すること。

2020.9.24 thu. link

もし何かをつかまえるために発達した骨を機能的な意味で親指と呼ぶならば、パンダの種子状橈骨は親指である。だが、その現在果たしている機能から、かつて手首であったその〈起源〉を類推することはできない。発生の論理と機能の論理とはけっして混同してはならないものなのだ。 ――岩井克人「パンダの親指と経済人類学」(『ヴェニスの商人の資本論』所収)

貨幣の発生の論理と機能の論理との間には何ら必然的な関係は存在せず、その意味で、まさに貨幣はかつては手首でしかなかったパンダの親指なのである。 ――同前

発生の論理機能の論理
関連メモ: 9月3日条

2020.9.23 wed. link

小企業滅ぶべし。
加速主義が進行中。菅義偉がマルクスの論に追従。

菅政権は中小企業基本法の見直しに向けた検討に着手します。税制上の優遇措置や補助金を受けられる中小企業の定義を変え、再編や経営統合を促します。ただ政府内では、性急な改革で税優遇などを失えば、企業淘汰を誘発しかねないと懸念する声も出ています。 ――時事ドットコム(時事通信ニュース) on Twitter
――――
どうでもよくないのは桃叟をこういう運命に誘い込んだマルクス主義思潮の問題です。桃叟だけのことではない。極端にいえば、全世界人口の半分以上、二十世紀人口の大部分が影響を受け、日々の生活に有形無形の影響を蒙っているこの思想は、たんによく言われる「青春のハシカ」として済ませられる問題ではありません。 ――わが「終活」(2) 付 『昭和昔話集』2 - 野口武彦 公式サイト

2020.9.22 tue. link

2020.9.21 mon. link

小企業は滅ぶべし、とマルクス。

この生産様式は滅ぼされなければならないし、それは滅ぼされる。その絶滅、個人的で分散的な生産手段の社会的に集積された生産手段への転化、したがって多数人の矮小所有の少人数の大量所有への転化、したがってまた民衆の大群からの土地や生活手段や労働用具の収奪、この恐ろしい重苦しい民衆収奪こそは、資本の前史をなしているのである。 ――マルクス『資本論』1.789-790

この論は、政治論においてルンペン・プロレタリアートを排除したのと同根。
ルンペン・プロレタリアートの存在を無視すると、マルクス自身が「ルンペン・プロレタリアートの首魁」と形容したルイ=ナポレオンのフランス第二帝政が説明できない。同様に、小企業の一方的衰滅を前提としたのでは、ガレージで創業したベンチャーが世界的企業にまで成長する事実を説明できない。
マルクスにおける小企業とルンペン・プロレタリアートの共通点は、歴史の夾雑物であること。

引用は大月書店刊『マルクス=エンゲルス全集』の紙型を流用した5冊本『資本論』(1968年)から。ただし「第1巻p.178〜790」の意味で「1.789-790」としたページ番号は原著のディーツ社版の巻数とページ番号。

2020.9.20 sun. link

左翼が捨てたマルクスの思想を右翼が加速させる。
それが自由主義諸国の現状。
経済活動の自由を広げて経済的強者がいっそう勝ちやすくする政策が推進され、経済的弱者の多くもその政策を――厳密には、政策そのものより、そのような政策を推進する政治勢力をだろうが――支持している。

結果としてもたらされる経済格差の拡大と階層の分化――マルクスの用語でいえば、ブルジョアジーとプロレタリアートへの分裂――は、マルクスが予想し、かつ望みもした社会の方向。
――――
百度(パイドゥ)が運営する「百度百科(中国版ウィキペディア)」の「竹中平蔵」の項目では、彼が小泉政権時代に行ってきた様々な改革を中心に詳しい人物紹介がなされており、しかもその記述のほとんどは彼の経済改革の手腕を高く評価する内容で占められている(「竹中平蔵」『百度百科』、2020年9月4日アクセス)。
日本の著名な経済学者で「百度百科」で紹介されているのは故・宇沢弘文氏、故・青木昌彦氏、野口悠紀雄氏など数名しかおらず、いずれも竹中氏ほど詳しい記述はなされていない。 ――竹中平蔵氏、中国社会でひそかに「大人気」になっていた(梶谷 懐) | 現代ビジネス | 講談社(3/7)

日本も中国も目指すところは同じで、経済の自由。
思想や言論は抑圧する。

兵器として外国に送り込むという手があったか。 ――松浦晋也 on Twitter
――――
ハイネは思想が実行に移されることの危うさを『ドイツ宗教・哲学史考』で述べた。
対照的にマルクスは、

ドイツ人の解放は、人間の解放である。この解放の頭脳哲学であり、その心臓プロレタリアートである。哲学はプロレタリアートの揚棄なしには自己を実現しえず、プロレタリアートは哲学の実現なしには自己を揚棄しえない。 ――城塚登訳「ヘーゲル法哲学批判序説」

哲学者たちはただ世界をさまざまに解釈してきたにすぎない。しかし、肝心なのは、世界を変革することである。 ――廣松渉・小林昌人訳「フォイエルバッハに関するテーゼ」

などと、思想(哲学)は実現されなければならないとした。

ハインリッヒ・ハイネ 1797-1856
カール・マルクス 1818-1883
1840年代の一時期、両者のあいだに具体的な交流があり、マルクスを主要編集者とする雑誌に、ハイネは1年間にわたって時事詩を寄稿した。また長編詩「ドイツ・冬物語」でもマルクスの提言を容れているという。

2020.9.19 sat. link

「誤解しているわ」と、彼女はいった。「まるっきり誤解よ。わたし、神なんか信じない」
「では、なにを信じている?」
「歴史」
 かれは一瞬、おどろいて、彼女を見た。そしてそれから、笑いだした。
「リズ、おどろいたよ。まさかきみがコミュニストとは」

会話はジョン・ル・カレ『寒い国から帰ってきたスパイ』(宇野利泰訳)の一節。
リズは歴史を信じている。
マルクス主義の歴史理論では、すべての歴史は階級闘争の歴史であるとし、最終局面のプロレタリアート(労働者階級)対ブルジョアジー(資本家階級)の戦いにおいてプロレタリアートが勝利して、階級のない社会が到来する。
歴史を信じるとは、このような歴史理論を奉じ、プロレタリアートの側にあって戦うこと。歴史と歴史理論が信仰の対象になっている。

時代背景はマルクスの生きた時代から一世紀、ロシア革命からは半世紀。
『寒い国から帰ってきたスパイ』の主人公リーマスは、職業安定所の紹介で図書館に仕事を得て職員のリズと知り合い、やがて愛し合うようになる。
リーマスは西側の諜報機関員。図書館の仕事についたのは、東側でスパイ活動をするのに先立って無難な経歴をつくっておくため。
リズは社会主義運動の末端にいる活動員。平凡で非力だが、善良な。
そのリズを諜報活動の小道具に仕立てる工作が、リーマスもリズも知らないところで西側機関によって進められ、それを察した東側の諜報機関も動き出す。東西双方の機関に操られる二人が迎える結末は?

昨日の記事でハイネにならって、レーニン、スターリンをマルクスの助手としたが、『寒い国から帰ってきたスパイ』のヒロイン――胴が長く、脚も長く、背を低く見せるためにかかとのない靴をはき、顔立ちも造作が大きすぎて不器量と美しさのあいだで決めがたかったリズ、年は二十二か三――も同じ。

2020.9.18 fri. link

「思想は行為になろうとする」としてハイネが言うには、

行為をほこるフランス人諸君よ、このことはよくおぼえておきたまえ。(…)諸君は思想の人々の意識していない助手以外のなにものでもない。マクシミリアン・ロベスピエールはジャン・ジャック・ルソーの助手以外のなにものでもなく、ルソーのつくった魂をもつ胎児を革命の時代の胎内から引っぱりだした血みどろの手をもつ助産婦以外のなにものでもない。ジャン・ジャックの生涯をなやましたあの落ちつきのない不安、あれは、彼の思想がからだをそなえてこの世にうまれでるためには、いかなる助産婦を必要とするかを、彼がすでに心のうちで予感していたことに由来するのではなかろうか。 ――ハインリッヒ・ハイネ『ドイツ宗教・哲学史考』(筑摩書房『世界文学大系78ハイネ』所収、舟木重信訳)

シンプルに言えば、行為者は思想家の助手。

ハイネは思想というものを、身体のない魂にたとえた。
身体がないから、魂は身体を希求する。
その希求にこたえて、いつか身体=助手が出現する。
フランス革命のロベスピエールをルソーの助手としたハイネにならえば、ロシア革命のレーニンらはマルクスの助手。

2020.9.17 thu. link

たとえ一社会がその運動の自然法則を探りだしたとしても、――そして近代社会の経済的運動法則を明らかにすることはこの著作の最終目的でもある――、その社会は自然的な発展の諸段階を跳び越えることも法令で取り除くこともできない。しかし、その社会は、分娩の苦痛を短くし緩和することはできるのである。 ――マルクス『資本論』第1版序文

「この著作」とは『資本論』のこと。
歴史には法則がある。その法則を明らかにするのが本書の目的である。
その法則を知ったからといって、歴史の各段階を飛ばして先に進むことはできないが、各段階を短時間で通過して分娩の苦痛を軽くすることはできる。
分娩の苦痛とは、具体的には労働者階級が資本主義体制下で味わう苦痛をいう。
さっさと資本主義経済を成熟させて、終わらせよう。

資本主義の成熟を急ぐ思想を加速主義という。
目指す方向によって下層の救済(左派)と上層の救済(右派)の違いがあるが、どちらも終末論的。

2020.9.16 wed. link

忘れられることを恐れてやまない人たちがいる。病理学的には被健忘恐怖症と呼ばれる。モンテの場合は、それと反対だった。彼は、だれからも忘れてもらえないという恐怖とともに生きていた。 ――ジョゼ・エドゥアルド・アグアルーザ『忘却についての一般論』(木下眞穂訳)

これがこの長編『忘却に――』の主題の半分。
出来事を忘れられない自分がいて、同じことを誰かが(あるいは誰もが)忘れずにいるだろう恐怖。
主題の残り半分は思い出すということ。

2020.9.15 tue. link

昭和11年(1936年)2月、いわゆる2・26事件起こる。
この武装正規軍による蜂起に呼応して、陸軍少佐大友宮アマヒト親王(大正天皇第5皇子)は弘前の第8師団歩兵31連隊を率いて東京に乗り込み、革命の簒奪に成功するや「天武2世」を名乗って即位、元号を「飛鳥」と定める。
これによってヒロヒト天皇の「昭和」は11年で終わり、以後、大日本帝国は天武2世を元首としていただくファシズム国家としての道を歩む。
一方、中国大陸とアジアの情勢打開に苦慮していたコミンテルン(共産主義インターナショナル)は、大陸における日本の強大な軍事力と民族資本の蓄積に着目し、亡命地の満州で保護されたヒロヒトを精神的支柱とする「大東亜人民共和国」の構想を第8回大会(1940年)において正式決定する。
かくて、2・26革命から9年後の飛鳥10年(1945年)8月15日、天武2世の大日本帝国敗戦の日、
ここは大東亜人民共和国の未来の首都に擬せられる上海──

以上は佐藤信『ブランキ殺し上海の春(上海版)』(1979年)の時代設定。
可能態としての歴史。天武2世によって革命を簒奪され大陸に追いやられた2・26反乱の実動部隊が、共産主義勢力と結んで大東亜人民共和国を築くという夢。

2020.9.14 mon. link

何だかんだいっても、結局少くとも5年ぐらいは「同棲」したわけだから、今更知らんぷりはできないし、またする気でもありません。輝かしい経歴などではなく、しくじり・恥・オッチョコチョイ・不調法・不体裁なことばかりがやたらに思い出されますが、それは決して自虐形態をしたナルシシズムではありません。今にして思えば、それは結局、当のマルクス主義本体がひっかぶった危機に由来する「不具合」の』個々の現れだったのではないのでしょうか。 ――わが「終活」(1) 付 『昭和昔話集』1 - 野口武彦 公式サイト
――――
アンゴラの情勢によって、この地方の食料不足は年々深刻化している。牛はトウモロコシと交換できないからだ。この矛盾(これだけの牛がいるのに、これだけの飢餓がある)が、アンゴラの特異性のひとつである。しかし、これこそがアンゴラなのではないだろうか? これだけの石油があって……? ――ルイ・ドァルテ・デカルヴァーリョ「航海のための注意書き……クヴァレの遊牧民についての簡潔かつ予備的な考察」

問題の飛行機は明け方に消息を絶った。四十五トンの鉄の塊が消えたこの謎を解き明かした者はだれもいない。あらゆる固形物は空気に溶解するってな、とマルクスを思いながらモンテは呟いたのだが、マルクスのように頭に浮かんだのは飛行機のことではなくて資本主義のことだった。このアンゴラで、資本主義は廃墟にはびこるカビのごとくすでにあれこれを腐らせはじめており、なにもかもが崩壊するだろうその末路がうかがえた。 ――ジョゼ・エドゥアルド・アグアルーザ「失踪事件が(ほぼ二件)解決した場所、あるいはマルクスを引用して、どのように『あらゆる固形物は空気に溶解する』のか」

上2件、ジョゼ・エドゥアルド・アグアルーザの長編小説『忘却についての一般論』(木下眞穂訳)から。

1975年の議会選挙で社会党が第一党になったことを契機に社会党と共産党の対立が深まり、1975年11月までに共産党系の軍人が失脚したことをもって革命は穏健路線に向かった。この間、海外植民地ではすでに1973年に独立を宣言していたギネー・ビサウをはじめ、アフリカ大陸南部の2大植民地アンゴラとモザンビーク、大西洋上のカーボ・ヴェルデとサントメ・プリンシペなど5か国の独立を承認した。一方、ポルトガル領ティモールでは、ティモールの主権を巡って独立勢力間の内戦が勃発し、内戦の末に東ティモール独立革命戦線(FRETILIN)が全土を掌握したが、12月にインドネシアが東ティモールに侵攻し、同地を実質的に併合した。こうしてポルトガルは1975年中にマカオ以外の植民地を全面的に喪失し(マカオもまた中華人民共和国から軍事侵攻をほのめかされるなどしたため、中国側へ大幅に譲歩して形だけはポルトガル植民地として残った)、レトルナードスと呼ばれたアフリカへの入植者が本国に帰還した。 ――ポルトガル#カーネーション革命以降 - Wikipedia

2020.9.13 sun. link

2020.9.12 sat. link

“The Place of Dead Roads” | Amyeighttrack's Blog

2020.9.11 fri. link

奴隷根性に侵された労働者階級は、主人をケアする習性が身についてしまっており、ダメな為政者にも思いやり精神を発揮してしまうという…
諸隈元シュタイン on Twitter 「文學界10月号 話題の本『ブルシット・ジョブ』を巡る対談だが…

2020.9.10 thu. link

人間の解剖は、猿の解剖のための一つの鍵である。より低級な動物種類にあるより高級なものへの予兆は、このより高級なもの自体がすでに知られているばあいにだけ、理解することができる。(マルクス『マルクス資本論草稿集1 一八五七─五八年の経済学草稿第一分冊』資本論草稿集翻訳委員会訳、大月書店、1981、p. 58) ――『人間の解剖はサルの解剖のための鍵である』著者・吉川浩満さん 刊行記念特別インタビュー!!【前篇】|Web河出

事物の弁証法的体系が
頭脳のなかへ
抽象的な創造活動のなかへ
思惟の過程のなかへ
投影されて、生ずるのが
  弁証法的な思惟方法であり
  弁証法的唯物論であり
  哲学である

エイゼンシュテインによる弁証法の定式化。
「映画形式の弁証法的考察」(佐々木能理男編訳『映画の弁証法』所収)より。

エイゼンシュテイン…→エンゲルス→マルクス→ヘーゲルという順での理解。
猿の解剖云々は、新しいものを理解することが古いものの理解を容易にすることを言っている。
エイゼンシュテインが定式化したことで(彼の意図に反してだが)弁証法および唯物弁証法の誤りが浮き彫りになり、そこから誤りの由来をさかのぼるとヘーゲルに到達する。元凶はヘーゲル。本来は思弁の術であった弁証法が、ヘーゲル以後、奇怪な社会理論、自然理論へと発展した。ひとことで言えば、世界の擬人化。論理を駆使したあげくの、おそらくは意図とは逆の原始心性への回帰。

自分の経験では、岩井克人の『貨幣論』によって『資本論』の最初のほうが理解できた。
マルクス主義の全体は加速主義から理解できるのではないか。
原則は、進化したものから調べること。
解説書、注釈書は、かならずしも進化したものとは言えない。『資本論』の解説書は、通常は『資本論』のレベルにとどまる。

2020.9.9 wed. link

先にわたしは『ブリュメール十八日』の冒頭を見世物小屋の呼び込みの口上に喩えたが、その伝でいうならば、こうしたトリッキーな修辞を駆使するマルクスの身振りとは、哲学者や科学者のそれというよりも、やはり奇術師のそれに近い。指先が摘まみ上げたコインがたちどころに消えうせ、シルクハットから鳩が飛び出すという芸当を通して、いつしか観客を驚異の世界へと拉致してゆく魔術師を思わせる何ものかがマルクスのうちにはある。 ――四方田犬彦『マルクスの三つの顔』

『マルクスの三つの顔』は、マルクス・アウレーリウス、カール・マルクス、マルクス兄弟を題材にした長編エッセイ。
自分にはよくわからない本で、とくにカール・マルクスについて何を言おうとしたのか理解できないのだが、あるいはカール・マルクスという人物も、彼の思想も、その思想が20世紀の世界に引き起こした惨劇も、すべて夢幻劇ファンタスマゴリーのなかの人物と出来事――ということにしようというのだろうか。

過去を夢幻劇として了解すること。
悪いことではない。
ファシズムの回顧などは、多くそのように行なわれてきたのではないか。
夢として了解できるならそれがいい。ルサンチマンを抱えて過ごすよりずっといい。
で、そのような思想を探そうとすると東洋思想になってしまうが…。

四方田が老荘に関して何か言ってないか検索すると、マンハッタンのアパートにはじまる陳凱歌との交流をつづったエッセイがヒットした。「幸福な無名時代」と題して『人民中国』に載ったもの。
老荘の語が一度出てきて、陳凱歌の『孩子王』を見て彼が老荘思想に強い親近感をもっていたことを確信した、と。
年を経てふたたび在住したマンハッタンで、リトル・イタリーのイタリア料理店で開かれた『ラストエンペラー』の完成を祝うパーティーに陳凱歌とともに訪れたくだりがあり、ジョン・ローンのリムジンに乗って駆け付け、ベルトルッチやジム・ジャームッシュらと卓を囲んだという。タイトルに背く幸福過ぎる無名時代だが、そのことはおいて、『ラストエンペラー』こそ夢として描かれた歴史ではなかったか。

老荘という解。

2020.9.8 tue. link

巡回写真屋のトムがガンファイターのキムに言ったこと。

インチキ写真は本物の写真よりか説得力がるんだよ。本物らしく見させるおぜん立てってやつでね。いいかい、写真なんてものはすべてインチキなんだよ。写真がどういうものかわかれば、すぐにだって無制限に偽造できるんだ。例えば、新聞に中国の洪水の写真が載ってるとするだろ。それが中国の洪水を撮った写真だとどうしてわかる? 新聞で読んだから知るんだよ。それは真実でなくちゃいけないんだ。真実でないにしてもね。 ――ウィリアム・バロウズ『デッド・ロード』

メディア(ここでは写真だが)がどういうものかわかれば、すぐにいくらでも偽造できる。
新聞やテレビのニュースも同じ。ネットも。
要はウケるかウケないか。ストーリーの出来次第。
いまや真実より虚偽がものをいう時代になった――という意味でメディアや社会の現状を嘆くのが「ポスト真実」「ポストトゥルース」という表現だが、じつはいつの時代もポスト真実だったのではないか。 歴史を動かしてきたのは、真理や事実よりそのときどきの人々が受け容れたストーリー。
――――
全新聞社連名で主催する日米開戦記念式典。
大塚八坂堂・東京オルタナティヴ&黒鷺死体宅配・コミックウォーカー 連載中。 on Twitter

2020.9.7 mon. link

Creek babbling through Benvoulin, Canada, wetlands

2020.9.6 sun. link

Qアノンは、民主党の政治家ら社会のエリート層が児童買春や悪魔崇拝の結社を組織しており、トランプ氏がこれとひそかに闘っているとする陰謀論と、こうした主張を支持・拡散する運動の総称だ。グリーン氏はトランプ氏に「あなたが私を立候補に奮い立たせてくれた」と返信。Qアノンが政界の主流に入り込み始めたことを印象付けた。 ――陰謀論「Qアノン」急拡大 トランプ氏と共鳴―米大統領選:時事ドットコム

Qアノン(きゅーアノン、QAnon、[kjuːəˈnɒn])は、2017年10月にハンドル名Qを名乗る何者かが匿名画像掲示板4chanに投稿した文章から始まった一部の保守派での陰謀論と、トランプ政権とアメリカ合衆国の敵対者が持つ機密情報にアクセスできると主張するおそらくアメリカ合衆国の個人、または複数の人物を指す概念。Qアノンの支持者の多くは熱狂的なトランプのファン、かつ「腐ったエリート」に反対する「反エスタブリッシュメント主義者」である。「QAnon」とは「Q Anonymous」の略と思われる。 ――Qアノン - Wikipedia

米共和党の支持者の約56%が、さまざまな陰謀論を展開する極右グループ「Qアノン(QAnon)」が主張する説の一部、または大半を信じているという。Qアノンの見解の多くがとっぴなものであることを考えれば、これは非常に高い割合だといえる。
米調査会社デイリー・コスとCiviqsが先ごろ共同で実施した世論調査によれば、共和党支持者の3人に1人(33%)が、「エリート層とディープステート(闇の政府)」を巡るQアノンの主張を「ほぼ真実だと思う」と回答。23%が、「一部は真実だろう」と答えた。 ――米共和党の支持者の半数超、陰謀論を広める「Qアノン」を信用 | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)
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ボルダー (コロラド州) - Wikipedia

ボルダー(もしくは、ボールダー、ボウルダー、Boulder)は、アメリカ合衆国コロラド州ボルダー郡の都市。州都デンバーの北西40km (25マイル) に位置。標高5,430フィート(1,655m)。人口107,353人(2018年)。ロッキー山脈とグレートプレーンズの間のボルダーバレーにあり、町を見下ろすフラットアイアン山が有名。

2020.9.5 sat. link

今日、車を運転しながらラジオを聞いていたら“พันธมิตรชานม”という単語がでてきた。英語で“Milk Tea Alliance”といい、日本語にすると“ミルクティー同盟”となるかな。そんな言葉というか、運動があるなんて全く知らなかった。さっそくツイッターで #MilkTeaAlliance というハッシュタグを検索してみた ――lug_yas on Twitter

バニラの香り漂うオレンジ色の甘いタイティー、台湾はタピオカ入り、香港は練乳で甘みをつけた濃い紅茶。名物のミルクティーを絆にした心の同盟だという。 ――ミルクティー同盟、権力との甘くない戦い 陰謀論も一蹴:朝日新聞デジタル

ミルクティー同盟、初めて知りました!
タイの有名俳優とその彼女が中国ネチズンに攻撃を受け、タイ側が猛反撃をしたのが発端。香港と台湾がそれを見て、各国のミルクティーになぞらえてこの #MilkTeaAlliance ができたみたい。中国のやり方に異議を唱えるムーブメント。 ――うーる🇹🇭on Twitter

圧倒的な物量を誇り百戦錬磨の(たぶん)中国勢だったが、今回の戦いは分が悪かった。もともと反体制的な論調を張り、自国の政府を批判しがちな傾向にあったタイ・ネチズンたちには、タイの国家・政府への攻撃が全く効かなかったのだ。 ――ミルクティー同盟結成のお知らせ|阿栗|note

タイの大学生ネティウィットさんは、#ミルクティー同盟 を「反中同盟にしない方がパワフルな連帯になる」とおっしゃっていました。その心はーー。日本の場合は?! ――吉岡桂子 Yoshioka Keiko on Twitter
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「中国が弱小国家だった頃は、あなた方(欧米)のルールでプレーするしかなかった。ところが、いまやわが国は強大です。なぜ、自国の価値観と思想にもとづいたルールを敷いてはいけないのでしょうか?」 ――ナチスの思想家を尊敬する中国の「御用学者」たち─習近平の「独裁」を全力応援 | クーリエ・ジャポン

強大なものは必ず悪をなす。たとえば GAFA。
国家ならアメリカ、ソ連、今なら中国、戦前の日本。
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ファクトチェックの効率の悪さ。

デマって撒くのは簡単だけどデマだと証明すんのはすごくめんどくさいのよ。しかもデマツイートよりもデマ証明ツイートはRTされないという… ――Simon_Sin on Twitter

関連記事: 2020.8.31 #posttruth
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青銅器時代のドイツの遺跡(古戦場)にある人骨を分析すると8人に1人はお腹を壊さずに牛乳を飲める遺伝子を持っている。
それから2000年くらいの中世初期では60%以上。
牛乳飲めることが生存に有利に働いている(それにしてもやたらと速い) ――ゆきまさかずよし on Twitter

2020.9.4 fri. link


2018年9月7日19:16:42 经济学家马光远在微头条转发了一张图片。图片中一头猪从猪圈的墙边探出头来看---- 看到的景象是一群人正在宰杀处理另一头猪。马光远对此图片没有做任何解释。但是此图片却引来众多网友围观,并发表了各种各样不同观感。在这里转发部分网友评论 ――马光远一张图片引网友围观评论_同胞

2018年9月7日19:16:42に、エコノミストのMa GuangyuanがWei Toutiaoに関する写真を再投稿しました。 写真では、豚が豚舎の壁から頭を突き出し、それを見た-人々のグループが別の豚を虐殺しているシーンでした。 馬光苑はこの写真については何の説明もしなかった。 しかし、この写真は多くのネチズンを惹きつけ、さまざまな見解を発表しました。 ネチズンからのコメントをここに再投稿してください ――Google 翻訳

[2020.9.25 追記] 魯迅を思い起こさせる画像らしい。

鲁迅先生从此以后,决定放弃学医。
それ以来、魯迅さんは医学の勉強をあきらめることにしました。――DeepL 翻訳

它只能看,还能怎样?! 记得鲁迅先生《狂人日记》里的“我”么?
見ることしかできない、他に何ができる?魯迅の「狂人日記」の「私」を覚えていますか?――DeepL 翻訳

虽然时代不同了,鲁迅已久远,但民众的参与始终是国家治理永恒的必须的选项。面对不公,不合理,每个人都要大胆喊出来,而不是做沉默的看客!
時代が変わり、ルードディットたちがいなくなって久しいが、民衆の参加は常にこの国の永遠の統治のために必要な選択肢であった。 不正や不条理に直面しても、黙って見守るのではなく、誰もが果敢に声を上げなければなりません――DeepL 翻訳

2020.9.3 thu. link

商品世界の「構造(Structure)」の分析と商品世界の「生成(Genesis)」の叙述との区別 ――岩井克人『貨幣論』

この「構造の分析」と「生成の叙述」は、それぞれマルクスの論じた価値形態論と交換過程論を指す。
岩井によれば、『経済学批判』の段階ではマルクスは両者を混在させていたが、『資本論』では独立に論じた。

「構造」と「生成」を類似の対比で置き換えると、「共時」と「通時」、あるいは「現在」と「歴史」、等。
構造と生成の区別という表現だけ借りて岩井のストーリーとは離れてしまうことになるが、共時的な観察から得た構造を、そのまま生成過程(歴史)にあてはめる誤りはマルクス、エンゲルスにあり、フロイトにもある。たんにあるというより、彼らの論の根幹にこれがある。「個体発生は系統発生を繰り返す」としたヘッケルの論も同様。
これら19世紀後半から20世紀にかけての例は、ダーウィンの進化論と対照させて考えることができる。
ダーウィンの論を支えたものとして、当時における古生物学の蓄積があげられるが、上の人々は化石に相当するような証拠を欠いたまま、現在において観察できる事象を歴史に当てはめた。

ダーウィンは、「種」という現在の事象を歴史の結果として説明した。
マルクスらの論は方向が逆で、現在から過去を導き出した。

2020.9.2 wed. link

それまでの政権は、勿論問題は多々あるものの、プロセス軽視という、政策以前にやっちゃダメだなことはここまでしなかったし、誰もやらない前提だから法律その他にも抜け穴があったわけで。だから「プロセス軽視」という行為の評価がこんなに違うのか、とインテリリベラルははじめて気付いたんですね ――在華坊 on Twitter

ポスト真実の問題と同根か。
ポスト真実とは、「真実」の問題が「ポスト真実」という形で現われたもの。
真理や真実が尊重されるのは、それらの有用性が認識されてから。
役に立たない真実、邪魔な真実は無視すべし。効果があるのは真実・事実より感性への訴え。そうした志向があからさまになってきた事態をポスト真実という。

プロセス軽視の問題も、「ポストプロセス」として敷衍できる。
安倍政権が積み重ねてきた成功体験に、「なかったことにすると、なかったことになる」というのがある。
そのためには、プロセスを消してしまえばいい。
過去のプロセスについては、証拠の改竄あるいは廃棄。今後のプロセスについては、証拠となりうる記録類の作成禁止。これらによって、プロセスはなかったことになる。

2020.9.1 tue. link

マルクスは恐慌を待望していたという(岩井克人『貨幣論』)。
たとえば次の『共産党宣言』の一節、

ブルジョア階級は恐慌を、何によって克服するか? 一方では、一定量の生産諸力をむりに破壊することによって、他方では、あたらしい市場の獲得と古い市場のさらに徹底的な搾取によって。つまりどういうことか? つまりかれらは、もっと全面的な、もっと強大な恐慌の準備をするのであり、そしてまた恐慌を予防する手段をいっそう少なくするのである。 ――マルクス、エンゲルス『共産党宣言』(大内兵衛、向坂逸郎訳)

ここにマルクスの恐慌待望が見られる。
恐慌とは、供給の過剰と需要の縮小による経済停滞。
資本家階級(ブルジョア階級)は恐慌の克服を通じて、さらに大型の恐慌を準備する。――この論理には、経済循環の果ての資本主義社会の崩壊が含意されている。
ならば、資本主義体制の打倒を目指す労働者階級にとって、経済恐慌は歓迎すべきことではないか。
ここから加速主義までは一歩、いやすでに加速主義だろう。
すなわち、どうせ避けられないなら、恐慌は早く巡ってくるほうがありがたい。――

終生変わらぬ恐慌待望論者であったマルクス(『貨幣論』)。