2020.10.31 sat. url
コオロギに意識はあるか。(10月28日記事 )
コオロギが属す昆虫綱の属す節足動物門の動物には意識があるとする説。
『意識の進化的起源』 (トッド・E・ファインバーグ、ジョン・M・マラット著、鈴木大地訳)は、「もし昆虫が心的イメージを生成できると示されれば、昆虫に意識があることになる」として、マルハナバチを用いた実験の肯定的結果を紹介している。
また節足動物全体について、カンブリア紀の節足動物や近縁動物の化石証拠によった論文から、これらの化石動物の脳には現生の節足動物の脳とおなじ部位があったとし、初期節足動物の脳は単純でも小さくもなく、もし現生の節足動物が意識をもつのなら、おそらく原初の節足動物も意識をもっていただろうとする。
2020.10.30 fri. url
「しつこいと思われるかもしれないが」と断りつつ繰り返されるドーキンスの釈明。
母親はひいきの子供を作るべきか、それともすべての子供に等しく利他的にふるまうべきか。しつこいと思われるかもしれないが、わたしのおきまりのことわり書きを、ここに改めて挿入しておかねばならない。「ひいき」という言葉には主観的な意味はないし、「べき」という言葉も、倫理的な用語として使っているのではない。私は、母親というものを、ある種の機械として取り扱っている。この機械の内部には、遺伝子が制御者として乗り込んでいる。そしてこの機械は、その遺伝子のコピーを増殖させるべく、能力の限りあらゆる努力を払うようにプログラムされているのである。読者も、また私も人間であり、意識的な目的をもつことがどんなことか知っている。そこで、生存機械の行動を説明するに際しては、目的に関連した用語を比喩的に使用すると都合がよいというわけだ。 ――リチャード・ドーキンス『利己的な遺伝子』(日高敏隆他訳)
ここでは、目的に関連した用語を比喩的に使用することについて断っている。そのほうが説明しやすいからである。
本書を通じて繰り返されるのは、遺伝子を擬人化して述べることについての釈明。なぜ擬人化するかといえば、そのほうが説明しやすいから。
では、なぜ、擬人化すると説明しやすいのか。
2020.10.29 thu. url
身体能力というもの。
ボールを空中にほうりあげて、ふたたびそれを捕えるとき、人はボールの軌道を予言して一連の微分方程式を解いているかのようにみえる。だが、その人が微分方程式の何たるかを知らず、気にとめなくても、ボールを捕える手際には何らさしつかえない。 ――『利己的な遺伝子』
身体で微分方程式を解く。
しかも多くの場合、計算結果と現実が一致する。
2020.10.28 wed. url
コオロギに記憶のあること。
コオロギは過去の戦いでおこったことについて一般的な記憶をもっている。最近多くの戦いで勝ったコオロギはタカ派的になる。最近負け気味のコオロギはハト派的になる。これは R. D. アリグザンダーによってみごとに示された。彼は模型のコオロギをつかって本もののコオロギを奇襲した。この処置を加えたあとでは、そのコオロギは他の本もののコオロギとの戦いに負けやすくなった。おのおののコオロギは、自分の個体群内の平均的個体の戦闘能力と比較しての自分の戦闘能力を、たえず評価しなおしているものと考えられる。 ――『利己的な遺伝子』
コオロギには戦いの記憶があるという。
新しい戦いにさいしてその記憶が呼び返されるらしく、負けがつづいていたコオロギは新しい戦いにおいても負けてしまう。
どうしてそうなるのか。
戦いに先立ってシミュレーションが行なわれるのか。シミュレーションの基礎的なデータは過去の戦いだろうから、結果は「負け」と出る。そのシミュレーション結果に従って、じっさいの戦いでもコオロギは負けてしまう。そういうことなのか。
高等動物ならありそうなことである。すなわち、反省意識があれば。
シミュレーションをしたり、その結果に従って行動したりするには、意志とか意識といったものが要るのではないか。
コオロギに意識はあるか?
過去の戦いの記憶を用いるコオロギのような動物が、ある時間密集した集団をなしてすごすと、ある種の順位制が発達するようである。観察者は個体を順番に並べることができる。順位の低い個体は順位の高い個体に降伏する傾向がある。個体どうしが互いに認知しあっていると考える必要はない。勝つことになれた個体はますます勝つようになり、負けぐせのついた個体はきまって負けるようになるというのが現象のすべてである。 ――同前
コオロギは互いを個別に認識しているのではないが、グループ内での各自のポジションを持っている。
そこまでは観察でわかるという。
そのポジションをコオロギ自身が行動に結びつけるには何が必要か。
意識があるなら、意識によって結びつけるだろう。
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代替的事実(alternative facts)ということ。
2017年のトランプ大統領就任式の際、ショーン・スパイサー大統領報道官は集まった群衆が「史上最大だった」と発表した。ところが実際には、オバマ前大統領の時より少なかったのが写真など多くの客観的情報から明らかだった。その明らかな「嘘」に対して、広報戦略を担当したコンウェイ大統領顧問がNBCの政治番組「ミート・ザ・プレス」で「代替的事実」だと反論したのだ。つまり、トランプと彼の取り巻きにとって「事実」であれば、それに反するどんな証拠があっても、単なる「事実」のバリエーションのひとつにすぎない、ということだ。 ――力の弱い者が嘘つきにされがちなこの世の中で |アメリカはいつも夢見ている|渡辺由佳里|cakes(ケイクス)
2020.10.27 tue. url
「われわれは彼らの生存機械なのである」とドーキンス(24日記事 )。
この「われわれ」とは、人類または生物のこと。ここでは人類ということにする。
「彼ら」とは、遺伝子のこと。
すなわち、人は機械である。
人は、遺伝子が遺伝子自身の生存のためにつくった生存機械(survival machine)である。
この言い方は、人が人間機械論を受け入れるのを助けてくれる。
哲学や宗教による人間存在の理由付けに代えて、物質をその根拠としたこと。かつ、「人は物質でできている」といった抽象的すぎる表現に代え、遺伝子として具体化したこと。そのさい、遺伝子を擬人化して、彼らに主体性があるかのように見せかけたこと。等。
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牛久大仏建立中の写真素晴らしい。そのままテクノミュージックのジャケットになりそう。――ダ・ダ・恐山 on Twitter
2020.10.26 mon. url
ものごとを擬人化して語ることについてのドーキンスの弁明。
あたかも動物や植物あるいは遺伝子が、成功率を増加させる最善の方法を意識的に考え出そうとしているかのような――たとえば、「雄は賭け金が高く危険も大きいギャンブラー、雌は着実な投資家」といった表現――戦略的なものの言いかたは、実践的な生物学者のあいだではありふれたものとなってきている。このような言い回しは、それを理解する十分な資格を備えていない(あるいはそれを誤解する十分な資格を備えたというべきか?)人間の手にたまたま落ちるということさえなければ、無害な簡便語法である。 ――リチャード・ドーキンス『利己的な遺伝子』(日高敏隆他訳)
ドーキンスは人間の理解力を見損なっている。
「たまたま」と彼は言う。よほど理解力の乏しい者か、あるいは必ず誤解するにきまっているような読者に「たまたま」出会わないかぎり、擬人的な表現が害をもたらすことはないと言うのだが、広く一般の読者を想定して書かれたこの本の場合、ここで言われたような読者が「たまたま」の存在であるとは考えにくい。
学界内の反応はおくとして、はじめて『利己的な遺伝子(The Selfish Gene)』というタイトルを目にした一般の読者なら、「遺伝子は利己的なものなのだ」とそのまま素直に受け入れるか、あるいは読書人なら「遺伝子が利己的であることを主張する本」と解するかであって、このタイトルだけから擬人的表現が説明のための簡便な手法だと察する読者は少数だろう。
この本の商業的成功の大きな要因は、キャッチーなタイトルにある。
そこにひかれた読者のおおかたは、「簡便語法」との注意書きを読み飛ばし、遺伝子にヒューマンな属性を見て楽しんだのではないか。
2020.10.25 sun. url
フロイトはつむじが二つある。――これは事実らしい
負けたくないと思う。でも、どうやって? かつらで?――これは夢
2020.10.24 sat. url
自己複製子は存在をはじめただけでなく、自らのいれもの、つまり存在し続けるための場所をもつくりはじめたのである。生き残った自己複製子は、自分が住む生存機械 (survival machine)を築いたものたちであった。 ――リチャード・ドーキンス『利己的な遺伝子』(日高敏隆他訳)
ここで自己複製子とは遺伝子のこと。
自らの入れ物、自分が住む生存機械とは、生物の身体のこと。
彼らはあなたの中にも私の中にもいる。彼らはわれわれを、体と心を生みだした。そして彼らの維持ということこそ、われわれの存在の最終的論拠なのだ。彼らはかの自己複製子として長い道のりを歩んできた。今や彼らは遺伝子という名で歩きつづけている。そしてわれわれは彼らの生存機械なのである。 ――同前
生物と遺伝子の関係の簡潔な説明。
このような記述を見ると、ドーキンスが遺伝子を擬人化して語ったわけがわかる。
擬人化したほうが、記述が簡単、簡明になる。逆説的なようだが、科学の趣旨にもかなうのだ。
何事も擬人化して理解するのが人間だとすれば、科学の書でも擬人化は避けられない。
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投稿したのは東北在住の10代男性。「ヒトラー=悪」という常識に疑問を投げかけたかったという。元ネタになった記事はニュースサイトで読んだといい「戦争から75年。今までの視点をずらし、当時の人物を評価していくことが重要ではないか」と話す。 ――SNSで揺らぐ平和意識 戦争容認、簡単に「いいね」 :日本経済新聞
目下の天使の練習帳 では、これも天使の内。
2020.10.23 fri. url
2020.10.22 thu. url
フェイク情報の高効率。
フェイクニュースは、精査されたニュースよりもソーシャルネットワーク上ですばやく拡散する。2018年以降、このテーマを調査したMITの情報技術とマーケティング教授であるシナン・アラル(Sinan Aral)によると、フェイク・ストーリーはツィッター上でリツイートされる確率が70パーセント高くなり、正確なニュースよりも最大で6倍の速さで拡散されるという。虚偽のニュースは、事実よりも驚きや刺激的なものが多いというのがその理由である。特にコロナ陰謀説は、中立的なニュースよりも、伝搬速度がきわめて速かった。 ――トランプ支えるQアノン、ドイツに影響力飛び火 陰謀論が急増する背景 | 武邑光裕 | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
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ミームの繁殖力について。
ミーム(meme)は動物行動学者リチャード・ドーキンスの造語。
遺伝子(gene)と対照させやすい単音節で作られ、ドーキンスは「文化伝達の単位」あるいは「模倣の単位」を意味するとした。おおざっぱには、情報の断片、ひとまとまりの情報などと考えていい。
ドーキンスがミームの語を提起した『利己的な遺伝子』 によれば、ミームの繁殖力(模倣される能力)は、おもにミームの寿命、多産性、複製の正しさ、この三つによるが、なかでも多産性が重要。
多産性の例として、科学的なアイデア、流行歌、婦人靴のスタイルなどをドーキンスはあげている。
問題のミームが科学的なアイデアである場合、科学雑誌のでの引用数がおおまかな繁殖の尺度となるだろう。流行歌ならその曲を口笛で吹きながら街ゆく人の数で測れるかもしれない。また婦人靴のスタイルなら、靴屋の売上げ統計を利用できるだろう。
ミームの多産性はかならずしもその寿命の長さに一致しない。
流行歌など急激な増殖を達成しながら、早期の忘れられてしまうものがある。他方、ユダヤ教の律法のように、数千年にわたって自己複製しつづけるものもある。これは書き記された言葉のもつ潜在的永続性による。
2020.10.21 wed. url
陰謀論の信奉者は、その「物語」を「真実」とみなしているという点で、彼らは文字通り「真実」を信じている。つまり、ポストトゥルースという言葉に反して、そこには「真実」しかない。だからむしろ問題は、人々が「フィクション」をもはや信じることができないでいることなのかもしれない。現在のインターネットは、個々が信じる「真実」で渦巻いている。そのような状況下で、「物語」を多元的な「フィクション」=可能世界に返してやることは、果たしてできるだろうか。言い換えれば、私たちは「フィクション」をもう一度本気で信じることができるだろうか。 ――木澤佐登志『ダークウェブ・アンダーグラウンド』
フィクションが真実に変わる。たとえば、たんに言い続けるだけでも。
右翼はそのことに意識的。とくに中核は。
社会を動かし歴史をつくってきたのはフィクションであること。
フィクション=ミームが現実世界に影響を与えるということに対して、おそらくオルタナ右翼ほど自覚的だった人々はいない。 ――同前
2020.10.20 tue. url
2020.10.19 mon. url
――フェイクニュースと事実とは、どこで線引きするのですか?
「トランプからのツイッターだよ。大統領から直接、言葉が届くんだ。ツイッターの内容が真実かどうかを判断する基準になる。選挙で国民に選ばれてトランプは大統領になったんだから」
――トランプは大統領就任以来、2万回を超える事実とは反する発言をしています。
「それはだれが数えたんだい。『ワシントン・ポスト』や『CNN』だろ? 奴らがフェイクニュースなんだから、そんなのあてになるわけがない」 ――トランプ信者 「真実か否かの基準はトランプのツイッター」|NEWSポストセブン - Part 2
信じたいものを信じる。
信じられるものが事実・真実である。
事態は真実以後(ポストトゥルース)ではなくて、真実以前なのではないか。
人類誕生以来、ず〜っと真実以前。
人類がこれからも人類であるならば、人類はこれからも真実以前。
ファクトチェックだけでは、フェイクのコストの低さ、拡散の速さ・広さに対抗できない。
人は誰も真実以前であること。
2020.10.18 sun. url
- Steven Levy 原著『暗号化』のデジタル化を希望する! | text.Baldanders.info
- クリプトアナーキスト宣言(Timothy C. May, YAMANE Shinji訳)
- サイファーパンク宣言(Eric Hughes, YAMANE Shinji訳)
サイファーパンクについては、10月2日条 。
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調べによると、容疑者らは、自分たちが「米国憲法違反」と見なした複数の州政府の転覆を謀ったとされる。
ミシガン州司法長官の発表によると、容疑者13人のうち6人は誘拐の共謀罪で連邦当局に逮捕され、市民武装組織「ウルバリン・ウォッチメン」の関係者7人は州当局に逮捕された。 ――CNN.co.jp : 米ミシガン州知事の拉致を計画、連邦と州当局が13人を逮捕 - (1/2)
トランプ米大統領は17日、中西部ミシガン州で開いた選挙集会で、同州のウィットマー知事(民主党・女性)が進める新型コロナウイルス対策を批判し「知事に州経済や学校を再開させねばならない」と訴えた。聴衆から「彼女を収監せよ」とコールが上がり、トランプ氏が「全員収監だ」と応じる場面もあった。 ――トランプ集会で「収監せよ」コール 拉致未遂のミシガン州知事に―米大統領選:時事ドットコム
2020.10.17 sat. url
2020.10.16 fri. url
天使の練習帳 を更新。[助走編]と名付けて、ひと区切りとする。
履歴と宿題 ⇒ 更新履歴
2020.10.15 thu. url
が、反応を見てると、このインタビューの恐さをみなさん、あまりよくわかっておられないのでは、という印象がどうしても出てくる。あのインタビューを、何か礼儀正しい知的な対談のように普通に読んでいる人が多い。そしてぼくが説明で、ウェルズがおめでたい知識人のボケ役みたいなネタにしてしまったこともあり、ほほえましく受けとっている人もいる。(あと、スターリンに真面目に反論している人もいたけど、無駄だからやめるように。スターリン死んでるし) ――スターリン閣下はお怒りのようです:インタビューの読み方説明 - 山形浩生の「経済のトリセツ」
インタビューを読んでみた。
スターリン曰く、
まず人類は金持ちと貧乏人に、財産保有者と収奪されている者に分けられます。そしてこの根本的な分割から自分を捨象し、貧乏人と金持ちの対立から己を捨象するのは、根本的な事実から己を捨象するということです。中間的な中間層の存在は否定しませんし、それはこの対立する階級のどちらかの立場を取れるか、あるいはこの闘争において中立的または準中立的な立場も採れます。しかし繰り返しますが、この根本的な社会の分割と、この二つの主要階級間の根本的な闘争から己を捨象するのは、事実を無視するということです。 ――偉大なる首領スターリン閣下のありがたきインタビューでも読み給え。 - 山形浩生の「経済のトリセツ」
また曰く、
歴史の豊かな体験によれば、いままで別の階級のために道を譲った階級など一つたりともないことがわかります。世界史上、そんな先例はないのです。共産主義者たちは歴史のこの教訓を学んでいます。共産主義者たちは、ブルジョワジーが自発的に退いてくれれば大歓迎です。しかしそんな事態の展開はありそうにないのです。 ――同前
2020.10.14 wed. url
正代、who? 11月1日発行の雑誌に正代という名前が出るという夢。ただし相撲取りの正代にあらず。
近日発売の雑誌。これが気になっていて見た夢か。
模索舎 on Twitter
左側より右側で思想が深化している。
自分の見ているもの――タイムライン等――がその方向に傾きつつある。ということは、自分でタイムラインを傾けているということでもあるが。
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ちなみに、ウェルズの言っていることと、いまの日本のヘナチョコ左翼の論調を比べると、まったく進歩が見られないどころか、むしろ退行していることに驚かされる……ことはなくて、むしろ納得感しかないのはとても残念な気がしなくもない。 ――偉大なる首領スターリン閣下のありがたきインタビューでも読み給え。 - 山形浩生の「経済のトリセツ」
2020.10.11 sun. url
ウソの共犯関係。
情報というものは政治的な目的があるかぎりは、必ずしも事実でなくともよいと考える人もいる。ちなみに、それはプロパガンダと呼ばれる。そしてその情報は荒唐無稽でスキャンダラスなものであればあるほど、人の無意識に入り込む。
プロパガンダというものは、「この情報はプロパガンダである」というメタ情報をどこか感じさせる方がウソの共犯関係が結ばれて、より効果的であるという。そしてその共犯関係にこそ、政治的な目的があるのだ。 ――「リバイアサン」トランプを生んだスティーブン・バノンの次なる野望
真実による共感関係は、その関係を維持する努力を必要としない。なにしろそれは真実なのだから。よかった、よかった、我々はわかりあえてる。――
それに対してウソで結びついた関係は、たえず維持の努力をつづけなかればならない。急所を突かれたらおしまい。つねにそんな恐れにさらされる。
イエスの死は、ローマによる急所の剔出にあたる。
対して信者の側は復活の物語でこたえた。ポスト真実の代表的な成功例ではないか。
2020.10.5 mon. url
ニック・ランド『暗黒の啓蒙書』(2012年)PART 4d「奇妙な結婚」から。
自由至上主義者 ( リバタリアン ) と貧乏白人 ( クラッカー ) という共通項の乏しい両者のあいだに結合が生まれているという。
一方の極を占めるのはラディカルな個人主義的教義であり、その関心はもっぱら、経済様式の自発的な交替が生む変わりやすいネットワークに向けられている(またこの立場は、社会的な紐帯の存在それ自体になんの反応も示さないことで知られる)。だがもう一方の極の周囲には、自分たちの暮らす地域にたいする愛着や拡大家族、名誉、商業的な価値にたいする軽蔑、そして第三者にたいする不信といったものからなる数多くの文化が存在している。流体的な資本主義によって純化された合理性が、伝統的なヒエラルキーや譲渡不可能な価値観と同じ地平に置かれている。出口を最優先とする態度が、出口など想像したこともないような土着的な形式のただなかに雑然と存在しているわけである。 ――五井健太郎訳『暗黒の啓蒙書』
両者は、アンチ民主主義、アンチ政治的公正といった思想傾向が共通。
2020.10.4 sun. url
天使の練習帳 を更新、海賊 の項を追加。
2020.10.3 sat. url
加速主義の定義
加速主義(accelerationism)は批評家ベンジャミン・ノイズの造語という。木澤佐登志によると、この用語は確認できる範囲で2008年のブログ記事を初出とし、2010年のノイズの著書『The Persistence of the Negative』において、
もし資本主義が自身を溶解させる力をみずから生成するのだとしたら、必要となるのは資本主義それ自体をラディカライズさせることである。すなわち、悪くなればなるほど、良くなる(the worse, the better)。我々はこの傾向を加速主義と呼ぶ。
と定義されている。(木澤『ニック・ランドと新反動主義』 )
「もし資本主義が自身を溶解させる力をみずから生成するのだとしたら」という仮定は、マルクスの歴史理論に見合う。鬼っ子であるとしても、加速主義はマルクス主義の後裔。
2020.10.2 fri. url
サイファーパンクという対抗カルチャー。
cypherpunk(サイファーパンク)とは、cyberpunk(サーバーパンク)とcypher(暗号)の合成語で、暗号化技術を武器に国家権力と対決するアナーキーな志向を意味する。
サイファーパンク運動の主導者の一人ティモシー・メイは、『共産党宣言』へのオマージュにはじまるテキスト「暗号無政府主義者宣言(The Crypt Anarchist Manifesto)」(1992年)によって、サイバースペースにおけるドラッグマーケットや暗殺マーケット、さらに政府による規制やコントロールに縛られない経済圏の登場を予言した。
メイは民主主義を激しく非難。ニーチェ哲学を信奉し、暗号化技術がニーチェのいう超人を可能にするとした。飼い猫の名もニーチェ。
以上、木澤佐登志『ニック・ランドと新反動主義』 による。
ここにも左翼が捨てたマルクスを右翼が継承する流れ。
ポジティブな思想の危うさ。
次の引用はニーチェ『ツァラトゥストラ』の一節。
せっかくの美しいイメージを、この直後、ニーチェはポジティブな理念を言い立てて台無しにしてしまう。
わたしの思い出は過去にさかのぼった。そうだ! こどものころ、遠い遠い昔に、 ――いつか、犬がこんなふうに吠えるのを、わたしは聞いた。毛をさかだて、頭をそらせ、身をふるわせて吠えたてる犬のすがたを見た。深夜の静寂のきわみには、犬も幽霊を信じるというが、 ――わたしは憐れをもよおした。ちょうど満月が屋上に、死のように黙々とのぼっていた。そのしずかに動かない円盤のかがやき、――それが平たい屋根の上にあった。照らされたわが家はよその家のようだった、―― そのために、犬はあのとき恐怖にかられたのだ。犬は盗人 ( ぬすびと ) と幽霊の存在を疑わないからである。 ――氷上英廣訳『ツァラトゥストラはこう言った』
ニーチェが永劫回帰のテーマをはじめて前景化させた第3部第2節「幻影と謎」から。
死のごとく黙々とのぼる満月。
深夜の静寂のきわみ。
ふいに毛をさかだて、身をふるわせて吠えはじめる犬。
せっかくの詩情が台無しにされるのは、この直後に持ち出される「超人」の概念によって。
2020.10.1 thu. url
新反動主義あるいは暗黒啓蒙と呼ばれる思想のスケッチ。
木澤佐登志『ニック・ランドと新反動主義』から。
ここから、民主主義という名の大衆迎合的なシステム兼イデオロギーの否定、そして独立した小都市国家が乱立する政治システムこそが最善であるという結論に至る。それら都市国家は企業的な競争原理によって運営され、住民は自由に所属する都市国家を選択することで都市国家の間で競争が発生するようにする。つまり、都市国家を運営する者は住民の要求に応え満足させるインセンティブが発生する……云々。
このような政治システムができたとき、新反動主義者が所属先として選ぶ都市国家の要件は、まず租税回避地であることだろう。
民主主義者や平等主義者がどんな都市国家を選ぼうが知ったことではないが、強者であるわれわれ、それゆえに勝者でもあるわれわれは、言うまでもなく租税回避地を選ぶ。適当なのがなければ作る。税金を払うのが好きな者も、その希望をかなえてくれる都市を探すか作るかすればいい。