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2006-05-02
怪盗デュヴァル (3)
ここはわずかに
セント・ポールの大寺院から数マイル
ステインズ村は白鹿亭の構内に
王室の紋章を打った荷車が一台
どうやらウィンザーの兵営まで
俸給の金袋を運ぶ途中とおぼしく
昼食をすませた兵士らが
その脇で休んでいる
護送の隊長はといえば
いましも宿の中庭に
相客の若者と卓をはさんで
一献また一献
酒がすすむほどに
口も軽く心も軽く
それもそのはず
見るからに相手の若者は
なみなみならぬ身分の人物
曇りも寄せぬ銀の剣鞘
金を着せた短剣の皮鞘
ベルトにきらめく二個のダイヤモンド
高貴ないでたちもさることながら
宮廷の噂となると
貴族や貴婦人の名をすらすら並べ立て
キングにさえ間近く接している様子
酔いが回るほどに
隊長の胸にきざしたのは
わしもとうとう運が向いたか
なんとかこのお方に取り入って
出世のつるをつかみたいもの
なんぞ知ろう
この若者こそ四年前
かのデューク座の
衆人見守るその中で
キングの指輪をあずかったまま
姿を消したクロード・デュヴァル
時は流れて街道一と
裏で知られたいまや盗賊