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2010-08-10
おいてけぼり
たしか本所の
ほうだったと思うが
おいてけぼり
というのがあって
貧乏御家人か何かが
日がな一日
釣り糸を垂れ
日の暮れかかるころ
ようやく一匹
釣り上げた鮒(ふな)を
魚篭(びく)に落として
帰りかけると
「おいてけ」
ぎくりとあたりを見まわすと
また
「おいてけ」

おいてけよ、お前
おいてけ、お前を

たしか本所のあたりだと
いうなら
きっとここは
本所あたりの
濠の底にちがいない
どんより淀んだ水底にも
暮れ方の赤茶けた光は
鈍く届いて
なにがしかの寂寥は漂う