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2015-12-06
変態ピエロ ver.2
舞台はパリ。やられたら、やり返す。さらわれたら、さらい返す。ジャンとポールはそういう仲である。
ある日、大統領を名乗る人物から電話がかかってくる。
「わしじゃよ、わし。アメリカ大統領」
「アメリカ大統領って、もしかしてバラク?」
「なんじゃ、そのバラクというのは。わしじゃよ、第43代アメリカ大統領J・B・ジュニア」
「はあ、ジュニアでしたか」
「そう、そのジュニア。右からも左からも愛され、好感度歴代ナンバーワンのアメリカ大統領」
そのジュニア大統領から何の用なのか。
「じつはな、あんたのさらったポールを返してもらいたい。わしのまたいとこなんじゃよ」
ポールならロープでしばって地下室にとじこめてある。すぐにでも解放できるが、ジュニアは交換条件を言い出さない。ずるいやつだ。やはり政治家なのだ。そこで自分もしらばくれることにする。
「しばらく時間をもらわないと」
「どのくらいかな」
「手の届かないところにいるんです。人にあずけてあって、居場所はきいてない。知らないほうが自分も安全ですからね」
そのころ、地下室は天井まで水に満たされて、大きな水槽に変わっている。
ポールの姿はない。
赤い色をチラチラさせて小魚が泳ぎまわっている。
金魚に違いない。日本から来たのだろうか。
長い無断欠勤のあと、昔の小学校めいた庭でポールの結婚式が行われる。
実際、小学校なのかもしれない。
アドレスはこんな感じで、もっと長い。
パリ市 c#-b 街 TeGH.H6hi7!rgoWp.32023-W2.....
自分の式なのに現場にゆくのが面倒で、ポールは自宅にいる。ソファに寝転がって、モニターで式が進むのを見ている。
そこへJ・B・ジュニアから電話がかかる。
ジャンを返してくれとジュニアは言う。
「ふふ」とジュニア大統領はふくみ笑う。「君がジャンを誘拐したことはわかってる。返してくれるね、またいとこなんじゃよ」
何者かが察したとおり、金魚は日本産。祭りの金魚すくいで子供にすくわれたところまでは記憶にあるが、その後のことは憶えがない。どうして自分はこんなところにいるのか。
ジャンがポールをさらう。すると、ポールがジャンをさらい返す。さらにジャンがさらい返し、またポールがさらい返す。
そういう日々がいつまでも続いて、きりがない。
さらうたびに大西洋を越えてジュニア大統領から電話がはいる。
ジュニアはあいかわらず機嫌がいい。
どうやら酒を飲んでいる。アル中の噂はほんとうらしい。