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2015-12-24
女ざかりの人
中堅女優の××が歌いながらやってくる。

  日傘くるくる 知らない町の
  はじめて通る商店街
  男だまして 逃げてきました

「あら、おひさしぶり」と××のほうから声をかけてくる。
「どうも、お元気そうで」と私。
「元気。元気。元気ですよぉ〜」
それまで歌ってたとおり、萩、桔梗、女郎花…、秋の七草をあしらった絵日傘を、まだくるくる回してる。
だけど、「知らない町」というのはフィクション。彼女の住居はここから近い。
「はじめて通る商店街」というのも、たぶんフィクション。そこそこ知られた女優なのに、近寄って来る人がいない。××がぶらついてるのは、地元では見なれた光景なのだ。
「で、何かやってしまったと」
「やっちゃったぁ〜」
男だまして云々は言葉のあやだとしても、何かはあったのだろう。カネに不自由してる人ではないから、あったとすれば愛情問題。どこかでまた一羽、若いつばめが泣いてるに違いない。××姐さん、ますます女ざかり、と感心しながら見送っていると、

  日傘くるくる 知ってるはずの
  通いなれたる恋の道
  それが 実はね
  逃げられちゃったの あたし

どうも本当らしいが、元気そうなのがなにより。