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2018-06-22
「滝の白糸」のエッセンスを抜き出した石川さゆり版
吉岡治作詞、市川昭介作曲、石川さゆりが歌った「滝の白糸」から。

恨まない 悔やまない
この世のことは
みんな みんな
おんな心の 愚か故

「滝の白糸」は、勉学を志す青年を女芸人の白糸が支援して東京に送り出すが、悲劇に終わる恋物語。泉鏡花の小説「義血侠血」を「滝の白糸」と改題して新派が舞台化したのにはじまり、映画、歌謡、歌舞伎、音楽劇などが派生した。
原作を読んでも芝居で見ても、個人的には泣けるというほどのものではなかったのだが、石川さゆり版の「滝の白糸」には危うく泣かされそうに。
演歌というジャンルが峠をこえた頃、いわば伝統芸能化した時期の作だから、音楽的な新味はないが、歌詞に描かれた潔さと石川さゆりの歌唱力があいまって名唱。
演歌の常道を踏んだ「おんな心の」に用心。ここを男の立場でつごうよく解してはいけない。耐える女や尽くす女の受け身を称揚した歌詞ではない。みずからの運命を肯定して、敢然と死におもむく「恨まない、悔やまない」生き方が歌われている。
人はきれいに生きるべし。格好良く生きるべし。粋でなくてはいけない。ダンディでなくてはならない。そういう原作の価値観──つまりは鏡花の価値観──をさゆり版の「滝の白糸」は抽出して見せてくれる。

泉鏡花の諸作はダンディズムの教科書として読める。