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2018-07-28
なんのための嘘か、秋成「歌のほまれ」
同じフレーズ「たづ鳴き渡る」を含む万葉集の歌。

  和歌の浦に潮満ち来ればかた
    芦辺あしべをさしてたづ鳴き渡る (山部赤人)

  いもに恋ひ阿虞あごの松原見渡せば
    潮干しほひのかたにたづ鳴き渡る (聖武天皇)

  桜田へたづ鳴き渡るあゆち潟
    潮干のかたに鶴鳴き渡る (高市黒人)

  なには潟潮干に立ちて見渡せば
    淡路の島にたづ鳴き渡る (作者不明)

この四首を並べて上田秋成が「歌のほまれ」で言うには、赤人も黒人も聖武天皇に仕えた。その二人がどうして御製を犯すようなことをするものか。昔の人は見たとおりを心のままに詠んで、すでに人が詠んだとも知らずに次から次へひたすら詠んだ。そういうものこそまことの歌というのである、と。
この論には嘘がある。
ひとつは、赤人も黒人も聖武天皇に仕えなかった。
もうひとつは、歌の作られた順が、黒人、赤人、聖武であること。
ということだから、嘘があるというより、嘘しかない。
「歌のほまれ」は創作。秋成は承知でこの錯簡をやっている。でも、なんのために?