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2018-11-05
フランクリン嫌い
ドン・ジュアンの家僕長は、フランクリン流の知性を持つフランクリンのような卑劣漢。
すなわち、やがて没落する貴族階級に取って代わる未来のブルジョワジー。
この家僕は主人の事業を管理しているうちに財産をつくったが、主人が金銭に対して示すあからさまな侮蔑のゆえに、主人を忌み嫌っている。

ボードレールは、ドン・ジュアンを主要人物とする芝居の案を記したメモで、家僕のキャラクターを上のように設定した。
他方、主人のドン・ジュアンはといえば、

あの、官憲どもに追いつめられた、ジプシーと、驢馬盗人ぬすびとたちを見るがよい。むろんのこと彼らは大変な危険に落ちている。にもかかわらず、私の知らない幸福の要素を彼らはもっていると、ほとんど賭けてもよい。ところで、二人してこの点を確かめて見たいんだが。人里離れた場所ではあるし、この健気けなげな連中にひとつ加勢してやって、官憲を袋叩きにしてやったら、彼らと知り合いになれるかも知れない。この奇異な種族は、私にとって、未知なるものの魅力をそなえている。(阿部良雄訳「ドン・ジュアンの最期」)

と、社会的に劣位にある者たちをうらやみ、共感をおぼえるような人物。
これに対する家僕の返答は、

お好きなようになさるがいい。詐欺師どもを救うために自分の命を賭けるとは、また大貴族の身でなんという奇妙な気晴らしでしょう!

フランクリンとは、勤勉を重んじたベンジャミン・フランクリンのこと。