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2019-05-28
空の形状と材質に関する諸伝承
空は明確な形状と実質をもった物質的な天井であるとする諸説。

ヤクートの英雄伝説では、空は地上の縁に立脚する半球とされた。
ブリート族は、ひっくり返した大釜に空を見立てた。
中国の創世神話に、空のドームは創世神である盤古ばんこの頭蓋骨から作られたとするものがある。
ユーラシア北部の多くの部族は、空は世界を守るための屋根であると考えていた。この考えは、ラップ人、フィンランド人、ヤクート人、日本人、ヘブライ人に見られる。
古代エジプトでは、空は海やナイル川の延長として見られ、その上を太陽が小舟で帆走するとされた。
空を金属の屋根あるいはドームとするエジプト人もいた。この考えは、隕石が金属質であることから出たものか。
アジア北部には、夜空をテントの屋根と見る部族がいた。この場合、天の川は針の縫い目とみなされ、星は小さな穴とみなされた。神々は地上を観察するためにときどき空を開けるので、そのおりに流星が放たれた。
フィンランドとその周辺の神話では、北極星は「空の釘」と呼ばれ、その上に天のドームが支えられ、それを中心に天のドームが回転すると考えられていた。
14世紀のウェールズの自然詩に、空を広大なゲーム盤にたとえ、星々を盤上に散らばったサイコロ遊びやバックギャモン用の駒としたものがある。
アフリカでは、空は地上にかかる固い天井であり、その上を太陽が動くと信じられていた。太陽は夜間に地下を通るとか、空の裏側を通って東にもどってくるとされた。

以上はすべてヘレン・ロス、コーネリス・プラグ『月の錯視――なぜ大きく見えるのか』(東山篤規訳、勁草書房)による。天体錯視にかかわる古代の哲学者から現代の研究者までの膨大な諸説を集めて、検討・紹介した研究書。