to top page
2019-06-05
ある地球人神父の死
地球の独房に囚われたヘンリー・デュランティを、地球人の神父が訪れる。
「プーカ人は告解するのかね」と神父がきく。
「ああ、するとも」とデュランティ。
「ならば、はじめなさい」
「だけど、あんたは年寄りだ。俺が告解するとあんたを殺してしまうかもしれない」
おそれずに話せと神父はいう。自分はこれまでにありとあらゆる告解をきいてきたのだから、と。

ヘンリー・デュランティは老神父に告解し、老人はそのせいで死んだ。直接にではなかったが、死んだのはそのせいだった。老神父はありとあらゆることを聞いてきた、と思っていただけだった。老神父は心の片隅の澄んだ部分で、ひょっとして熟達の語り部の手に絡めとられてしまったのではないかと疑っていたが、そのまま死へ、そしておそらくは地獄へと連れていかれた。デュランティが物語をつむぎだすと、老人の心は蝋細工ろうざいくのように溶けていった。 ――R・A・ラファティ『地球礁』(柳下毅一郎訳、河出書房新社

プーカ人の強烈な告解欲にやられて神父は死んだ。
あらかじめ、致命傷になるかもしれないと知らされてはいたのだが。