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2020-02-11
我々はそれを持たない
生理学者のベンジャミン・リベットが1980年代に行なった実験を素直に解釈すると、人間に自由意志はないという結論になる。
次図はその実験結果を整理したもの。


この実験では、被検者が自分の手首を動かす動作と脳波の関係が調べられた。
図の横軸が実験中の経過時間、縦軸が脳波の強度。
W - Awareness of intension とある箇所が、被検者が手首を動かすことを決めた時点を示し、それから0.2秒後の Action 時点で実際の動作が起きている。すなわち平均的には、被検者の意思決定から動作までに0.2秒のタイムラグがあることが実験で確認された。
脳波の動きで注目されるのが、実際の動作よりも0.55秒先立って手首の動作に関する脳波が動き出していること。被検者の意思決定からは0.35秒先立って手首を動かす準備がはじまっているわけで、この経過を素直に解釈すれば、被検者が自由意志と思ったものは、すでに開始されていた動作の追認にすぎない。

この実験が正しく――科学者の実験の作法として適切に――行なわれたものであることは、広く認められているらしい。第三者による追試も行なわれたという。
が、実験を行なったリベット自身は、自由意志は存在しないという解釈を受け入れず、自由意志(conscious free will)を補完する非自由意志(free won't)なる概念を導入して自由意志の存在を主張した。人はいったん意思を決めても、その後の0.2秒のうちに決定を取り消すことができる、あるいは、本人の意思に関わりなく行為が起きかけていたとしても、実際の行為が行なわれる前に取り消すことができる――というのがリベットの主張の骨子。主張の是非よりも、自由意志へのこだわりが興味深い。人はそうまでして、自由意志の存在を主張しなければならないのか。

リベットの「取り消し可能説」に対する簡潔な批判。
研究者たちの認識は、人に自由意志はないという方向に傾きつつあるという。

よくよく考えてみれば、この「ドタキャン」にしても、それ自体に準備期間が必要なはずで、同様に、意識の与り知らないところで決まっている可能性が高い。
現在では、自由意志を手放すまいと無理に解釈するよりも、素直に、我々はそれをもたないと認めてしまう方向へと議論が向かいつつある。 ――渡辺正峰『脳の意識 機械の意識』

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