Magazine Oi!
2016-10-03
キム・カーソンズの弁証法
弁証法とはどういうものか。実感としてわかったのでメモ。

事実が二つある。
事実の一つは、1899年9月17日にコロラド州ボールダーの共同墓地で行われたキム・カーソンズとマイク・チェイスの決闘。彼らは相打ちで死ぬ。
もう一つの事実は、同じ日に同じ場所で行われたキムとマイクの決闘。この決闘では、キムがマイクを倒す。
(この決闘については先日も書いた

どちらの事実が真の事実かは問題にならない。どちらも事実なのだから。
このことは弁証法の要。
一方が真で他方が偽なのではない。

ガンファイターを志すキムは、気に入らない相手なら即座に撃ち殺し、気に入った相手ならセックス(ホモ)を繰り返して仲間を増やし、アメリカ各地に拠点をつくる。マンハッタンにも勢力を築いたキムは、イギリス、フランス、アラブ、さらにアフリカの密林、南極大陸に工作を広げ、金星にまで渡って活動をつづける。

やがて時間をさかのぼりはじめるキム。
そして、1899年9月17日、場所も同じボールダーの共同墓地でキムとマイクの決闘が行われ……。
これが第三の事実。弁証法でいう「合」。

ヘーゲルの弁証法は、ある命題「正」、それと矛盾する命題「反」、それらを統合した命題「合」で構成される。「正」と「反」に優劣の関係はない。どんな命題もそれ自体矛盾をふくんでおり、矛盾する二つの命題は、むしろその対立によって結びついている。矛盾は「止揚」によって解決され「合」に至る。

キムが父親に教えられたこと。
「何かを決めるときは、あらかじめありとあらゆる要素を目の前に思い浮かべて状況を全体的にながめる。ながめるだけでいい。決めようとするのではない。そうすれば、答えはひとりでに出てくる」
作者のバロウズが「弁証法」や「止揚」という用語を使ったわけではないが、止揚を行うための教えとして読める。同時にバロウズの創作作法でもある。
『デッド・ロード』はその教えを実践した大がかりな止揚の物語。はじめの二つの決闘(「正」と「反」)から最後の決闘(「合」)に至るまで、400字詰め原稿用紙にして800枚ほど。じつは800枚かけても、結末はあいまいにぼかされていて、事態が止揚できたとはいえない。解決は続編の『ウェスタン・ランド』に先延ばしされる。