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2018-10-22
「二流の文学作品を読んだときに呼び起こされる動揺と素朴な興奮」

ルネ・マグリット「暗殺者危うし(The Menaced Assassin)」は、マグリットが1927年に描いたファントマ・シリーズともいうべき連作のうちの一枚。
以下、すべて赤塚敬子『ファントマ――悪党的想像力』による。

構図がルイ・フイヤードのファントマ映画第3作「ファントマの逆襲」の一場面に酷似している。
その場面とは、実業家のトメリー氏が怪人のアジトに入っていくところを、ファントマとその手下が黒装束で待ち構えているというもの。映画ではこの人物は、二人に襲いかかられ、首を絞められて殺される。
ただし、マグリットの絵では暗殺者は単数(Assassin)だから、中央の人物こそがファントマ的存在の暗殺者ではないか。ファントマは不死身だから、襲撃を逃れて生き延びるはず。というか、絵画だからあとは鑑賞者の判断次第。

マグリットに「ファントマについてのノート」と題する掌編あり。和文なら400字詰め原稿用紙2枚ほど。
ジューブ警部は、眠り込んでいるファントマをみつけて縛り上げるが、哀れみの言葉がファントマを目覚めさせる。
意識を取りもどしたファントマは、すでにジューブの囚人ではない。
またも失敗したジューブ。残された手段はファントマの夢に入り込むことだが。

1980年にテレビ映画のファントマ・シリーズを監督したクロード・シャブロルは、
「背筋に震えが走った」
と、この絵(複製だったが)を見たときの感想を述べた。
「それは二流の文学作品を読んだときに呼び起こされる動揺と素朴な興奮である」