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2018-11-04
ファンタスマゴリー
ファンタスマゴリー(フランス語)またはファンタスマゴリア(ドイツ語、英語)とは、幻灯機にその他装置や役者の実演も組み合わせた見世物。現代の技術でいえば、仮想アイドルの初音ミクに実在の中村獅童がからむ「超歌舞伎」のようなものだが、ファンタスマゴリーはおどろおどろしく演じられた。


ファンタスマゴリー(フランス語:Fantasmagorie, 英語:Phantasmagoria, Fantasmagoria)は、18世紀末にフランスで発明された、幻灯機を用いた幽霊ショーである。ベルギーのリエージュ出身の物理学者のエティエンヌ=ガスパール・ロベール(フランス語版)、通称エティエンヌ・ロベールソン(1763年 - 1837年)がパリで行った興行によって有名となり、ヨーロッパ、とくにイギリスで、19世紀を通して流行した。
幻灯機によって、壁、煙、半透明の幕に画像を映写した。しばしば後ろ側から映写し、幻灯機を動かすことで画像を動かし、複数の幻灯機を使用することで画像の瞬時の切り替えを行った。映写されたのは、骸骨、悪霊、亡霊などの画像で、降霊術に深く関わるものであった。(ファンタスマゴリー - Wikipedia

以下は最初期(18世紀末)の実演の模様。四方田犬彦『マルクスの三つの顔』(亜紀書房)による。
ファンタスマゴリーを見ようとしたら、パリのヴァンドーム広場に近い路地を深夜に訪れなければならない。革命によってなかば廃墟と化したカプチン会修道院の墓地を抜け、これも革命直後の動乱で廃墟同然となっていたと思われる礼拝堂で待機していると、やがてロバートソン(ロベールソン)の口上につづいて出し物がはじまり、ランプが消えて暗黒となった場内で、雨や雷鳴、葬式の鐘の音といった効果音とともに闇のなかから何か白く奇妙なものが浮かび上がる。
言うまでもなく、この白いものの正体(?)は幽霊で、観客はたっぷり恐怖を味わって(楽しんで)帰途につくという次第。幻影の背後では、観客側と映写幕の裏側とに同時に2台の幻灯機を設置したり、器械をレールに乗せて移動させ、最後にスモークをたくといった仕掛けが働いていた。演目は、旧約聖書のサムエルの霊がサウルを訪れる光景、オルフェウスと妻の再会と別れ、血まみれの尼僧と地獄の業火で焼かれる修道士など多岐にわたったが、好んで陰惨でグロテスクな死者や幽霊の再来が演じられた。マリー・アントワネットの処刑を再現する一方で、革命の志士ロベスピエールが墓場から蘇生して落雷に倒れるといった光景も。

ロバートソンの興行には、宗教が説く奇跡とやらの楽屋裏を暴いてみせようとする倫理的な啓蒙主義と、観客の無意識的な情動に訴えて恐怖の惨劇を実現させてみようとするスペクタクル的情熱の双方が、矛盾した形で結合して働いていた。(中略)大革命によって従来の迷信から解放され、合理主義の精神を押し付けられたものの、その実まだ理性崇拝の教説に付いてゆくことのできない庶民の心理的間隙を、ロバートソンは巧みに突いた。