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2019-03-12
マッハの最遠平面体験
視覚にかんするエルンスト・マッハ(物理学者、1838-1916)の体験。

マッハは子供のころ、汽車で旅行するといつも、物が小さく見える症状に見舞われた。丘、山、建物、人物などが、現実にはそうでないと知りながら、それらとそっくりの小さくて近くにある模型に見えたという。後にはそのようなことはなくなり、意識して症状を再現することもできなくなった。
やはり子供のころの体験。授業中に具合が悪くなって疲れ切ったおり、他の人物が非常に小さく、また非常に遠くにあるように見えた。

2件ともマッハの小論文「計測的空間に対する生理学的空間」(野家啓一編訳『時間と空間』所収)から。
前に見たユクスキュルやヘルムホルツの例(「天球の大きさのこと」)と共通するところが多く、いずれも幼時の体験であり、かつ非日常(病中、病後、旅行中)での出来事。
マッハの回顧では、体調や車中という環境によって空間把握の能力が混乱したり退歩したりしているが、ユクスキュルらのケースと同じく「最遠平面」――天文学でいう「天球」――にかかわる体験と見ていい。

マッハは天空について、同じ小論文で次のようなことを言っている。

直感に素直にしたがう素朴な人々は、天空というものを有限の半径を持つ球と見なしている。古代の天文学者たちも同様。
じつは、視空間の半径は方向によって異なる。
天蓋が扁平であることは、早くプトレマイオスが認め、近代ではオイラーが論じた。
この事実を生理学的に解明する道をひらいたのはゾスで、これが「頭部を基準に測られた視線の高さに依存する」現象であることを実証した。

ゾスとは、Oskar Zoth というオーストリアの生理学者のこと。