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2019-03-11
人は天球の外に出られない
先月書いた「天球の大きさのこと」の続き。


天文学では天球の大きさを無限大とするのが普通だが、生理的には天球の半径は 5km から 10km 以内。
上の図はだいたいの下限(5km)を計算するためのもので、その目的の限りでは正しい図だが、観察者の眼の位置 h を地球半径 R の10分の1の長さで描いたため、地球にくらべて天球が大きくなりすぎている。図中に正しい比率で天球を描きこむと、表示デバイスにもよるが、せいぜい芥子粒ほどにしかならない。

われわれの生理的感覚により近いかたちで天球を描くと、次のようになる。


見てのとおり大地は平たい。日常生活でわれわれが大地を球面として意識することはまずない。したがって日常感覚に素直にしたがうなら、天球も平面の上に載った球となる。その大きさは、半径 5km から 10km。太陽や月はこの天球上を東(E)から昇って西(W)に沈む。

ふいに農具を投げ出して男は歩きだす。
どこへ? 夕陽の落ちる彼方(W)に向かって。
それきり男は帰ってこない。
そういうことがロシアの村々、とりわけシベリアではいつも起きている。――
と、そんな話を昔なにかで読んでおぼえがある。
それきり帰ってこないというのなら、村を捨てた男たちは地の果て W を越えて、さらにその先をたどったのか。
じつはその先まで行ってしまったのは確からしいとしても、地の果てを越えてはいない。
というのも、天球の原点 O は具体的なシベリアのどこかに固定されているのではなく、それぞれの農夫、それぞれの個人に属人的で、人が歩けば O もその人とともに移動するから。
このことは視覚を持つ生物ならば人間以外でも同様で、それぞれの個体にそれぞれの天球がある。