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2019-07-27
悪天候が抒情をリリースすること
ボードレールにおける霧と雨。

ボードレールが抒情的表現の素材として初めて切り開いた対象のなかでも、一つのものがきわだっていると言えるだろう。すなわち悪天候である。 ――ベンヤミン『パサージュ論』

『パリの憂鬱』の詩人としてのボードレール。「なるほどこの詩の本質的な特徴の一つは、霧の中の倦怠アンニュイ、倦怠と霧(都市の霧)との混交である。一言でいえば、それは憂鬱である。」 ――ベンヤミン『パサージュ論』、ただしカッコ内は他書の引用

晩秋から、冬を越え、泥つぽい春先きまでの、
退屈な季節よ! 僕は君等を愛し、君等を賛美する者だ、
かうまでして君等は、僕の心と脳髄を、
霧の死布かけぎぬと雨の墓とで、包んで呉れるのだから。 ――ボードレール「霧と雨」

雨降り月、このまち全体に腹でも立つか、
かかへたかめを傾けて、近くの墓地の死者たちに
気ふさぎな寒さをそそぎ
霧立ちこめる場末には死の影どつとぶちまける。 ――ボードレール「憂鬱」

引用は、ベンヤミン『パサージュ論』第1巻(今村仁司、三島憲一他訳)、ボドレール『悪の華』(堀口大學訳)から。